第48章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 謙信END
「さて、飾るか」
舞と一緒に絵馬をくくり付ける。
叶うようにと祈りを込めて。
舞が、その小さな手で絵馬の紐を結ぶ、その仕草を目で追う。
こんな弱そうな小娘に秘められた、強い強い力。
真っ直ぐで、どこまでも愚かなのだけれど。
───それでも、己を動かした純粋すぎる力
「…なんと書いたんだ?」
お互い絵馬を結び終え、隣にいる舞を見下ろして問う。
すると、舞は少し悪戯っぽく笑い…
そして瞳を覗き込んできた。
「謙信様が教えてくれたら、教えます」
「……いいだろう」
「え?」
「俺は絵馬に、こう書いた」
舞に向き直り、その細い両肩を掴む。
そして、絵馬に書いた『これ以上ない願い』を教えた。
「お前が俺より先に消えて無くならないように、と」
「謙信様……」
舞の顔が苦しげに歪む。
それが見ていられず、そっとまぶたに口づけを落とした。
人はいつか死ぬ。
戦を星の数ほどくぐり抜けた己には、それはよく解っていた。
しかし、戦以外でも、人は死ぬ。
どんなに大切にしようと、死はそれを分かつ。
大切な物が無くなる瞬間を、もう見たくは無かった。
なら……舞にはずっと生きていてもらわねば。
舞は次第に瞳を潤ませ……
それが零れそうになった時、舞はきっぱりと言い放った。
「私は……消えて無くなったりしません」
黒曜石のような瞳。
そこから溢れそうな涙を拭おうと、そっと目元に指を当てた瞬間。
舞がまばたきをして、睨んできた。
その煽情的な表情に目が奪われ……
とても綺麗だと…心の奥底から思った。
「私は決して謙信様を独りにはさせません、でもそれは謙信様も同じです。私を独りにしないで」
「舞……」
「これからずっと一緒に生きて行きましょう?春も夏も、秋も冬も……またこうして七夕を一緒に祝ったり、ずっと過ぎる季節を一緒に見ていきたいです。一緒に…未来を見たいんです。謙信様を、愛していますから───…………」