第48章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 謙信END
「絵馬に、なんてお願いを書きましょうかね」
神社で貰ってきた絵馬を手に、舞が子供のようなはしゃいだ口調で言う。
そんなに一緒にいる事が嬉しいのか。
そう思うだけで、心が温かくなる。
本当に舞は温かな陽だまりのような女だと思う。
「そうだな……早く戦で戦えるようにとでも願うか」
「謙信様、それはちょっと…やめましょう?」
「俺が心を踊らされるのは斬り合いをしている時だけだからな」
「……」
(お前はすぐに顔に出るな、舞)
口をつぐんで少し暗い顔をし始めた舞の肩を、片手でそっと引き寄せる。
そして、その額に唇を押し当てると、舞はびっくりしたように目を見開いた。
「そう思っていたのだが……今は少し違うようだ」
「え……?」
「お前が居るからだろうな、舞。お前がいるだけで心が踊る、だが…穏やかにもなる。それはお前のせいだ、だからその責任を取れ、舞」
呆れるほど身勝手な責任転嫁。
だが、それに満足したのか──………
舞は小さく笑って『はい』と答えた。
本当にこの女はよく解らない。
だが、これから知っていきたい……強くそう思う。
───濃紺の空には、満天の星が瞬く。
儚げにも見えるそれは、死した先人達が光となって照らしていると言う話をどこかで聞いた。
死人があれほど綺麗に煌めくとは思えないが、でもそうでも思わなければ、それを乗り越える事は出来ないのか。
柔く、優しく、光り続ける、星屑。
見守っているのかもしれない。
この身を、空の彼方から『あの女』も──…………
「謙信様、大丈夫ですか?」
思わず心が離れ、ふと気がつくと。
舞が心配そうに顔を覗き込んでいた。
なので、安心させるように、無言で微笑み頭を撫でる。
髪を梳かれ、舞は気持ち良さそうに目を細めた。
「絵馬は書けたか?」
「はい、ちゃんと書きましたよ。謙信様は?」
「ああ、少しだけ待て」
急いで手に持った筆を走らせる。
書きたい願い事は、すでに決まっていた。
失いたくない、強く弱い自分の願い。
───自分には、これしか無いのだから