第48章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 謙信END
「わぁっ……綺麗!綺麗ですね、謙信様!」
(───いい笑顔だ、連れて来て良かった)
数々の竹灯篭が足元に揺らめく。
舞の満面の笑みを見て、謙信は思わず口元が緩んだ。
舞と一緒に訪れた、湯治場の近くにある神社は七夕祭りが行われており。
鳥居からは幻想的なまでに無数の灯篭がならび、そこには一緒に絵馬も飾られている。
そんな中を舞と二人で歩き……
自分の中に不釣り合いな温かな感情を覚え、思わず心の中で苦笑した。
安土城で、舞を賭けた争奪戦。
わざわざ浴衣を用意し、越後から安土へ佐助と共に足を運んだ。
月白色に瑠璃色で兎と月とススキが描かれた浴衣。
この上杉謙信が用意したその浴衣を、舞は選んで身にまとい、広間に現れた。
舞は、己を選んだと言う事。
想いは──…………
確かに通じあっていたのだ。
(この俺が、再度女を想うなど思ってもみなかった)
過去には辛い事もあった。
故に、二度と誰かを求めまい。
そう心で境界線を張ってきた。
二度と張り裂けそうな辛い想いはしたくない。
自らの防衛本能が働き、全てを遠ざけ戦に溺れた。
しかし───…………
舞はその境界線を軽々と越えてきた。
愚かすぎるほど純粋で、素直で、眩しくて。
鈍感かと思いきや、時に聡い。
そして、いつも真っ直ぐにぶつかってくる舞。
そんな魅力的すぎる女を……
求めない事など、無理だった。
「安土の近くにこんな所があるなんて知らなかったなぁ」
「殆ど国境だがな。安土に向かう途中で見つけた、お前と七夕を祝うには丁度良いと思ってな」
「本当に連れて来てくださって、ありがとうございます、謙信様」
「礼を言われる程でもない」
ふにゃりと愛らしく笑う舞の頭を撫でると、さらに舞ははにかんだ様に愛らしく微笑んだ。
浴衣を着てきた舞を連れ出し、馬に乗ってやって来た近場の湯治場。
温泉が湧き出るそこは、安土に向かう最中偶然見つけた場所であり。
七夕には竹灯篭が燈ると話に聞いていたので、舞を連れて来るには絶好の場だと、そう思った。