第47章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 信長END
「月見酒ならぬ、星見酒でもするか」
「はいっ、お酌しますね」
舞が一度部屋の中に戻り、盆に盃二つと酒の入った提子を乗せて、欄干に運ぶ。
そして、そのまま二人で腰を降ろした。
盃を差し出せば、舞は優しく丁寧に酌をし。
その幸せそうな笑みを見ながら、酒を煽る。
酒の甘さの中にほろ苦さが混じり、喉へと流し込めば……
何故かそれだけで少し酔ったような気がして、不思議な眩暈に襲われた。
「うん、美味いな」
「良かった、星を見ながらお酒なんて素敵ですね」
「貴様にも酌をしてやろう、呑め」
「はい、ありがとうございます」
盃に酒を注いでやると、舞は嬉しそうにそれに口を付けた。
そのにこにことした柔らかい笑みを見ているだけで、心が安らぐ。
今まで女に執着した事など無かった。
それなのに……舞とはずっと一緒に居たくなる。
───そう、この先も、ずっと…………
「なんか、楽しいし嬉しいです、こうしてるの」
「……そうなのか?」
「はい、信長様と思い出が出来ました…こんなに綺麗な天の川が見れるとは思って無かったので」
そう言って、眩しそうに夜空を見上げる。
視線の先を追えば、満天の星が瞬き……
その光は、まるで舞の瞳の輝きのようだ。
そっ…と手を伸ばし、すぐ隣に座る舞の片頬に触れる。
優しくその瞳を覗き込むと、舞は少し頬を赤らめ、純粋な眼差しを向けてきた。
「そうだな、俺も貴様とこうしているのは心地よい。貴様とこうしてささやかな幸せを感じのも…悪くない」
「信長様……」
「ささやかな幸せも積もり積もれば、山のように沢山の幸せになる。貴様は時を駆けて俺に出会って、そして積もる程の幸せを与えてくれた。これからは、その幸せを分かち合えたらと、そう思う」
自分でもびっくりする程の優しい声色で言うと、舞は泣きそうに瞳を潤ませた。
煽る様な美しい瞳には、徐々に涙が溜まり……
それが零れないうちに、舞の身体を引き寄せ腕に抱きすくめる。
柔らかな感触と共に、温かすぎる体温が、この冷たい身体を包み込み。
呆れるほどの安らぎと、意外なほどの熱情が身に宿り始めたのを感じた。