第46章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 三成END
「どうしました、猫さん」
そのまま猫に近づいて、手を伸ばす。
が、撫でようとすると『猫さん』はするりと手を抜け、先程入ってきた障子のすき間から出ていってしまい。
追いかけるように障子を開けて……
すると、ある一点に視線を奪われた。
紫色の朝顔の花だ。
部屋の脇の縁側に置いておいた、昨日舞と一緒に買った鉢の朝顔は。
朝露を艶やかに花びらにまとわせ、そして太陽に向かい、見事に咲き誇っている。
それを見て頭によぎった、七夕の恋物語。
ああ、これならきっと、織姫と彦星は……
それを考え、思わず笑みが零れた。
「花、咲いたな……」
「あれ…三成、君………?」
その時、自分の背後から、可愛い寝ぼけたような声が聞こえてきた。
振り返ると、舞が身体を褥から起こしていて。
御姫様がお目覚めだな…と、満面の笑みを浮かべた。
「おはようございます、舞様。身体は辛くはないですか?」
「うん、ちょっと怠いけど大丈夫、どうしたの?」
「舞様、見てください…ほら」
少し部屋から出て、部屋の手前まで朝顔の鉢を引き寄せる。
その朝顔の花が咲いているのを見た瞬間。
舞はそれこそ花のように微笑んだ。
「わぁ、綺麗に咲いたね!」
「はい、この分なら織姫と彦星も…無事に会えたと思いますよ」
「え、どう言うこと……?」
舞が可愛く首を傾げるので、褥に戻り、舞の後ろに腰を降ろす。
そして、後ろから舞を優しく抱き締め、その耳元で『理由』を説明した。
「朝顔の花は、別名『牽牛花』とも呼ばれていましてね」
「牽牛……あ、彦星?」
「はい、その通りです」
朝顔は、その種が薬として非常に高価で珍重されたため。
種を贈られた者は、牛を牽いて御礼をしたという。
それは古い昔、異国での謂れである。
それから朝顔は『牽牛』、花は『牽牛花』と呼ばれ。
その牽牛は七夕の『彦星』であることから……
無事に花開けば、それは織姫と彦星の逢瀬が無事叶ったしるしで、縁起がいいとされている。