第46章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 三成END
「でも、三成君。なんで朝顔なの?」
市からの暗い帰り道。
舞が不思議そうな表情で尋ねてきた。
蕾の朝顔を買ったのには、勿論意味がある。
それを示唆するように、ふふっと意味深に笑ってみせた。
「今日は七夕だけど雨でしょう、本当に織姫と彦星が会えたか気になりませんか?」
「それはもちろん気になるけど……朝顔で解るの?」
「はい、明日の朝になれば解りますよ」
「へぇー、そうなんだぁ、なんか楽しみだね」
舞がまるで陽だまりのような笑顔を向けてくる。
温かくて、優しくて……
この人は、太陽そのものだ。
そんな風に思いながら、笑みを返す。
外は雨だけれど、こんな風に太陽が間近に居るなら。
心の中は、本当に陽だまりみたいに温かい。
こんな温かな人が星に願いたい事って何だろう。
ふと心に、疑問がよぎった。
「舞様は、何か願い事があったのですか?」
「え?」
「ほら、雨が降ってしまって……舞様、残念そうだったでしょう。だから……何か願いたい事があったのかと思いまして」
すぐ隣を歩く舞に問いかける。
すると舞は少し、恥ずかしそうに頬を染め……
少し俯き加減で口を開いた。
「願い事もそうなんだけど…感謝の気持ちを伝えたかったの」
「感謝?」
「うん……三成君と出逢わせてくれて、ありがとうございますって。いつまでも三成君の最愛の人で居られますようにって…お願いしたかった」
「舞様……」
その健気で可愛らしすぎる願い事に、思わず心臓をぐっと鷲掴みにされた心地になる。
素直で、真っ直ぐで、可愛い舞。
いつも一生懸命な、その小さな背中が愛しくて、どうしても抱き締めたくて……
恥ずかしくてもなんでも。
赤裸々な気持ちが、舞の一言によって心から溢れ出すのが解った。
「それは、私も同じ気持ちですよ、舞様」
思わず立ち止まり、舞の方を向く。
すると、舞も足を止め、視線をこちらに向けてきた。
怖いほど澄んだ、黒曜石のような瞳。
そこには、己の姿が映っている。
少し照れたようなはにかんだような……そんな呆れるほど幸せな自分の姿が。