第46章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 三成END
「市へ出掛けましょう、買いたい物があるので」
「え……別に構わないけど、何を買うの?」
「はい、七夕にとっても重要なものです」
そう行っても舞は何の事か解らないようで……
ますます可愛らしく、首を傾げた。
そんな様子が可愛く、くすっと笑みが漏れる。
雨でも楽しめる七夕祭り、自分なりに考えた結果だ。
「蕾の、朝顔を買いに行きますよ、舞様」
不思議そうな表情の舞を連れて、雨の中、市へ出向く。
すでに辺りは夕方の気配。
どんより空がますます暗くなり始め、初めて恋仲として過ごす、七夕の夜が訪れようとしていた。
────…………
「蕾の朝顔あるよ、ちょっと待ってな」
一つ傘の下。
舞が隣で『良かった』と嬉しそうに微笑む。
あの後、相合傘をしながら市へ出向き、露店を訪ねると。
ちょうど朝顔を売る町人と出くわす事が出来た。
毎年七夕の辺りに、朝顔は咲き始める。
そのせいか、朝顔の鉢を売る人が、市には必ず一人は居るもので……
それを狙って来て、正解だったようだ。
「今日は雨が強いから軒下にでも置いておけば、明日の朝にでも咲くはずだよ」
恰幅のいい、にこやかな男が持って来た、その朝顔の鉢。
そこにはたくさんの紫色の蕾が、今にも咲きそうに膨らんでいた。
「良かったね、三成君」
「はい!これを買って御殿へ参りましょう…舞様、今日は御殿に来てくださいますよね?」
「うん、いいよ」
その朝顔の鉢を買い、風呂敷に包んで市を後にする。
そして、また肩を並べて一つの傘で身を寄せ合った。
外は雨。
ザアザアと音を立てて降る大粒の雨は、七夕の日をしっとりと濡らし、その日を終わらせていく。
雨が降ってしまい、神社の七夕飾りに短冊を書いて吊るす事も、満天の星を舞と一緒に眺める事も出来なかった。
(それでも、いいと私は思う、だって……)
今日の七夕、自分だけの織姫を手に入れた。
舞と一緒に過ごせる最初の日。
それは、雨でも、雪でも、嵐でも。
────きっと、暖かな日になるから。