第45章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 光秀END
(……織姫と、彦星か)
暮れゆく夕日。
夜の気配を帯び始めた空を見ながら、ふと今夜限り逢瀬が許される、七夕の恋人の物語が頭に浮かんだ。
それは、非現実的で非合理で。
馬鹿らしいなと思いつつも……
七夕に結ばれた俺達も、織姫と彦星なのかもしれないな。
そんな事を心に思って。
思わず、苦笑が漏れた。
「……光秀さん、どうしたんですか?」
「いや、何でもない」
(世話の焼ける織姫様だな、舞は)
それも愛らしくて、目が離せないがな。
結局舞には甘い自分に呆れたのは、舞には秘密にしておく。
───…………
「本当にすみません、光秀さん…」
近くの宿屋の一室を借り、舞の足を冷やして手当てする。
赤くはなっていたが、そんなに腫れてくる様子も無かったので、ホッと胸を撫で下ろした。
固定して布を巻いてやりながら、舞が随分としょぼくれていたので。
思わず苦笑し、その鼻先をぴんと指で弾いた。
「痛っ」
「気にするな、大事にならなくて良かったな」
「でも…短冊書きに行けませんでしたね。折角の七夕なのに…」
(しょぼくれている理由は、それか)
その理由があまりに可愛らしくて、本当に参る。
手当てし終わると、舞の腰を引き寄せ、胡座をかいた上に横にして座らせた。
その小さな身体を腕の中に囲いながら、間近で揺れる瞳を覗き込む。
「気にするな、七夕は来年もある」
「でも、丸々一年も先です」
「なんだ、来年の七夕は俺と一緒に居ないつもりか?」
「え?」
「来年でも再来年でも、短冊は書ける。その時一緒に書きに行けばいいだろう…俺はお前と、一生一緒に居るつもりだが、お前は違うのか」
指でくるくると舞の髪を弄びながら言うと、舞は少し頬を染め俯いて…
『一緒に居ます』と小さな声で呟いた。
なんだろう、この愛らしさ。
ああ、馬鹿みたいに惚れすぎてるな。
そうありありと実感出来る。
舞の顎を掬い、先ほど啄んだように、もう一回唇にちゅっと口づける。
すると舞はきゅっと唇を噛み、申し訳なさそうな小さな声で言った。