第45章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 光秀END
「舞、俺にも林檎飴を食わせろ」
そう舞に声を掛けると、舞は立ち止まって、くるりと振り返った。
振り返った瞬間、長い髪が風になびき……
それが鼻先を掠め、なんとなく香った甘い匂いに、思わず息が詰まる。
「光秀さんも、林檎飴食べますか?」
「そうだな、食ってみたくなった」
「じゃあ、新しいのを買いに行きましょう?」
「その必要はない」
「え?」
空いた手で、林檎飴を持った舞の手首を握る。
そのまま顔を近づけ──………
食べかけの舞の林檎飴に、ぱくっとかぶりついた。
───シャクッッ………
小気味よい音と共に口に含むと、飴の甘ったるさと林檎の酸味が口の中に広がる。
これが美味いかと訊かれても、さっぱり解らないが。
「み、光秀さ……!」
「うーん……成程。やはり、味は解らないな」
顔を上げ舞の表情を伺うと。
舞は手首を掴まれたまま、なんか困ったように眉をひそめて真っ赤になっていた。
あまりに可愛くて、思わずぷっと吹き出す。
一旦繋いでいる手を離し、その赤い頬を指で撫でると、舞はますます困ったように唇を噛んだ。
「……なんだ、林檎飴みたいに真っ赤だぞ?」
「だって……」
「ああ、成程な。『こっち』の林檎飴を味わえと」
「え?」
頬を撫でている指で、そのまま舞の顎を捉える。
くいっと引き上げ上を向かせ、その飴で濡れた唇を、己の唇で啄むようにして味わった。
「っ!!」
舞が目を見開いているのを尻目に、ぺろりと唇の周りを舐める。
甘い甘い飴の味。
それに、ほのかに舞の差している紅が混ざって、なんとも言えない風味が広がった。
「うん、こっちの方が確かに美味い」
「み、光秀さんっ!」
「口づけたくらいで、目くじらを立てるな。どうせ今夜はお前をまるごと食うんだぞ?」
「〜〜〜………っっ!!」
(本当にからかうと面白いな、そうやって反応するから、ますます意地悪したくなる)
舞に意地悪をするのは、自分の特権だ。
いじめて、そして泣きそうになったら『悪かった』と言ってとことん甘やかしたくなる。