第45章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 光秀END
「光秀さん、こっちです、早く早く!」
賑わう市の七夕祭り。
舞が林檎飴を舐めながら、空いた手で光秀の手を引き、一生懸命に歩いて行く。
舞の半歩後ろで手を引かれながら、その可愛らしい様子を見て、光秀は苦笑しながら歩いていた。
舞を賭けた、安土城での一件。
舞が、この明智光秀が用意した浴衣を選んで着てきた事で、軍配は自分に上がった。
白地に紫の桔梗と萩が描かれた、奥ゆかしい古風な雰囲気の浴衣。
それは、間違いなく己が用意した浴衣だった。
桔梗は己の家紋を意味したものであり、また、桔梗には『永遠の愛』『清楚』の意味もある。
舞に贈る浴衣には、ぴったりだと思った。
そして、それを身にまとう舞は、本当に清楚で可愛らしくて……
市の七夕祭りに連れてきたが、まるで舞だけ色鮮やかに視界に映るようだった。
(俺も、こんな小娘に見事にほだされたものだ)
そうは思っても、舞を好きな気持ちは抗えない。
もう惚れるに惚れまくってしまった現実からは、どうやら逃げられないようだ。
「舞、そんなに急ぐと転ぶぞ?」
「大丈夫ですよ、ふふっ」
「随分なはしゃぎっぷりだな、そんなに楽しいか」
「はい、とっても!」
(心が安らぐな、本当に可愛い)
終始ニコニコしている舞を見るだけで、戦乱の時代と言うのも忘れてしまいそうになる。
その笑顔、ずっと守ってやりたい。
誰の手でもない、この自分の手で。
そんな風に思い始めたのはいつからだったか。
最初は、その素直な綺麗すぎる笑顔が、眩しいと思い。
自分には不釣り合いだと、もっと手の届かない所で、優しく笑っているのが似合っていると……
半ば諦めた感情を持っていた。
だけど、己も男だと言う事。
愛してしまったからには、自分の手で幸せにしてやりたい。
自分の手でその美しい華を開花させ、その花びらが開く瞬間を確かめたい、と。
呆れながらも、そう思ってしまった以上……
もう、逃げ道などは無くなっていた。
(自分を主張するなんて事、無かったんだがな)
心で苦笑する。
それでも、諦めるなんて出来ないのだけれど。