第44章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 政宗END
────サァァ………
優しく、夜風が頬を撫でる。
静かな空気の中、舞と無言で空を見上げ……
腕に抱いている身体は、泣きたくなるくらいに温かい。
その柔い温もりに陶酔してしまう。
時間よ、このまま止まってしまえ。
そんな馬鹿らしい感情すら、芽生える程に……
「まだ七夕の短冊書いてないね」
ふと、舞がそんな事をぽつりと漏らした。
思わず舞の方を見ると、舞はこちらに身体をもたれ掛けて、天を見ながら小さくクスクス笑っている。
「……短冊に何を書きたいんだ?」
「ふふっ、内緒」
「別に星なんかに祈らなくても、俺が叶えてやる」
「それ言ったら、折角の七夕祭りが台無しだよ?」
(願いは、自分の力で叶えるもんだ)
舞の話を聞いてですら、そう思う。
天に祈るなんて、自己満足だろう?
───でも、舞の願いは叶えてやりたい。
素直にそう思う。
無欲で、人に決して自己を押し付けない舞。
そんな舞が叶えたい願いとは、一体なんだろう。
「ちょっとだけ、織姫と彦星に祈ってみようよ」
「俺はどの星が織姫と彦星か知らねぇ、解らねぇのに祈れるか」
「あれ、政宗知らないんだ。ほら…あれだよ、天の川を挟んで明るい星が二つあるでしょう?」
そう言って、空を指差す。
頭の上には満天の星達。
きらきらと瞬き、落ちてきそうなほど輝くそれらは……
普段星空なんてあまり見上げない、自分でも綺麗だなと思えるほどで。
舞の指差す位置を一生懸命に目で追えば。
確かに夜空を横切るようにある雲状の光の帯を挟み、やたらと明るい星が二つあるようにも見える。
「天の川を挟んで左側が彦星、右側が織姫だよ」
「ふぅん…そうか……」
「やっぱり解らない?」
「いや、織姫は解った」
「本当に?!」
「……ああ、だって───…………」
そのまま、ふわりと舞に身体を預けて押し倒す。
静かに舞の背中が茣蓙に付き、視界が動いたせいか、舞はびっくりしたように目を見開いて。
身体の上に覆いかぶさり、不敵に笑む男を、少し潤んだ瞳で見上げてきた。