第43章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 家康END
「……もう一枚書こうかな、願い事」
しばらく舞の唇を堪能して。
ちゅっと水音を残して唇を離すと、舞の顔を一回悪戯っぽく覗いた。
そして、舞にそう告げて、懐からもう一枚梶の葉を取り出す。
そのまま側に置いておいた筆を握り、筆先を走らせた。
その姿を、舞は間近で不思議そうに見ていたが……
やがて、梶の葉に書き終わった『願い事』を見るや否や、顔を林檎みたいに染めた。
「そ、それが願い事……?」
「そうだよ、舞次第では、真っ先に叶うんだけど」
「……っっ」
「どうする……?」
そう問うと、舞はしばらく唇を噛み締めていたが…
やがて『じゃあ、私ももう一枚書く』と言うので、舞に最後の梶の葉を渡した。
舞は筆を取り、短く何かを書いていたようで。
書き終わるや否や、その梶の葉をこちらに押し付け、ぷいっと背中を向けてしまった。
「い、家康の、意地悪っ……」
背中越しに、悔しそうにそう呟くのが聞こえ。
思わずぷっと苦笑してしまった。
そのまま、舞から押し付けられた『願い事』を見る。
その内容を確認し、それは舞の精一杯の『返事』だと。
そう思って、思わず頬が緩んだ。
「うん、解った。叶えてくれて、ありがとう」
そして、舞に告げる。
これから訪れる、甘い一時の始まりを。
「じゃあ……御殿に、行こうか」
───俺が、もう一枚の梶の葉に願った事。
『舞を抱きたい』
そう書いた、願い事に。
舞はたった一言、答えた。
『いいよ』
そのたった三文字が。
限りなく愛しく思えた。
これは、七夕に起こった、幸せな奇跡なのか?
そして、舞の小さな手を引いて、御殿へ向かう。
半歩後ろを歩く舞は。
照れているのか、恥ずかしいのか。
ずっと無言で、頬を染めたままだった。
でも、その握り返してくれている、細い指が。
嫌ではない事を伝えていた。