第40章 * オマケSS集 *
* 幸せな我儘、オマケ *
「……舞、まだ起きていたのか」
それから半年後―……
天主で行燈の明かりを頼りに縫い物をしていた舞に、信長は近寄り、声を掛けた。
舞はにこっと笑って、傍に来た信長を見上げる。
「もうすぐ完成ですから」
「あんまり根詰めるな、祝言までまだ日にちはあるだろう」
「もたもたしてたら、お腹のが大きくなっちゃいます」
舞が口先を尖らせるので、信長はくすりと微笑み、舞の後ろへ回り込む。
そしてそのまま座り込むと、舞に腕を回し、背中から抱きすくめた。
「……別に、腹が目立ったら、縫い直せばよいではないか、うぇでぃんぐどれす」
「駄目ですっ、時間ないし生地も高いし……」
「では、意地でも間に合わせるんだな」
信長は舞の肩に顎を乗せ、そして腹に手を当てる。
そのまま優しく撫でれば、そこにいる生命が返事をするような気がした。
「……男か、女か」
「ふふっ、どっちでしょうね」
「貴様に似た姫だな、さぞかし愛らしいだろう」
「信長様に似た方が、きっと美人ですよ」
「いいや、貴様似だ」
その信長の意固地な言い方に思わず舞は吹き出す。
そして、腹を撫でる信長の手に、自分の手を重ねた。
「……もう少し経ったら、産まれてきますね」
「……そうだな」
「元気に産まれてくるといいですね」
「ああ……」
「信長様」
「どうした?」
舞は首だけ振り返り、にっこり微笑んだ。
「愛してくれて、ありがとうございます」
その幸福そのものの表情に……
信長は穏やかに微笑み返した。
「俺の言葉を取るな……愛している、舞」
そのまま、柔らかく唇が重なる。
これから訪れる幸せに酔いしれて……
いつまでもこんな時が続くのを、心の底から願いながら。
終