第5章 幸せな我儘 / 織田信長
「ほう、随分上等な布地で仕立てられているな、絹か」
こんなに良い布地を使っているとすれば、針子の舞にとっては心躍るだろう。
しかし、舞の真意はちょっと違ったようで。
「ウェディングドレスは女の子の憧れですから」
と、子供の様にはしゃいでいる。
「そんなものか?」
「はい! 白いウェディングドレスを着て結婚式……祝言を挙げる事は、女の子ならみんな夢見る筈です」
「貴様もか?」
「それは、もちろん! 私は……」
舞は少しはにかみながら、恥ずかしそうに信長に言った。
「貴方の為に着られたらいいなぁって…思います」
(こやつ、またそんな愛らしい事を……)
たったその一言で、心臓を鷲掴みにされた。
舞は、想像を遥かに超えた事をいつも言う。
そして、俺を乱す。
「ならば、着てみるが良い」
「え、いいんですか?」
「ああ」
舞は花の様な笑みを浮かべ、その花嫁衣装を胸に抱えると、部屋にある屏風(びょうぶ)の裏へと消えた。
(目の前で着替えれば良いものを)
恥ずかしがり屋の舞の事だ。
着替え中の、あられもない姿を見せたくないのだろう。
(花嫁衣装か……近い内に、本物の祝言で着せてやる)
ちょっとした決意を決め、信長は献上品の酒を呑みながら、舞の着替えを待つ事にした。