第38章 一触即発禁止令 / 明智光秀
「お前ら、恋仲になってどのくらい経つ」
「一月……くらいか」
「じゃあ、まだ知らない事のが多いだろ」
「……まぁな」
「だったら、舞に直接理由を訊け。壁は二人で乗り越えろ。多分それ、一人で悩んでいても解決しないぞ?もっと、お互い知る努力はすべきだ」
政宗のもっともな言葉に、光秀は思わず俯いた。
―――…………
その日、舞が安土城の掃除をしているのを見かけた。
世話役を信長様に命じられてから、それを必死にこなす姿に……
健気で可愛い、と思ったのがそもそもの始まりだ。
惹かれ始めてから、どっぷりドツボにハマるまで、そう時間は掛からず……
気がつけば、みっともない程、舞に溺れる自分がいた。
何しても可愛いとか思う時点で。
政宗の言う『舞に毒されている』のは、当たっているのだろう。
想いが通じあってからは。
それこそ、舞に触れていないと、おかしくなりそうな位に―……
「舞」
光秀は廊下を雑巾がけする舞に声を掛けた。
舞は止まって、キョロキョロと振り返り……
こちらの姿を確認すると、花のような笑みを浮かべた。
「光秀さんっ」
多分犬とかだったら、シッポ振ってそうな。
そんな懐っこい笑顔が、堪らなく愛しい。
が―……
舞はすぐに笑顔を引っ込め、また雑巾がけに戻ってしまった。
「……」
光秀は早足で舞に近づく。
そして、頭に手が伸びた。
そのまま撫でくり回そうとして……
舞が気づいて急に振り返ったので、思わず手をぴたっと止めた。
「触っちゃ駄目です」
「頭を撫でるくらい、いいだろう」
「駄目ですっ」
「何故触らせない」
「……」
「ちゃんと理由を言え」
「駄目なものは、駄目なんです」
(なんだ、それは)
舞はぷいっと背中を向けてしまった。
その小さな背中を見るたび、もっと奪いたいと言う欲に駆られる。
めちゃくちゃに奪って、そして。
とことん甘やかしたいと。
なのに―……
「舞」
「……」
「答えろ」
「理由なんて、ないです」
何度も押し問答を続けた時だった。