第37章 無防備な蜜、無自覚な蝶 / 石田三成
「ごめんなさい、止まらない」
「三、成、く……」
「身体が…身体が、疼くんです……っ」
そう言って、また唇を塞いだ。
片手で舞の手首を押さえつけ、空いた片手で滑らかな脚を撫で上げていく。
その柔らかな感触は、着物の上からじゃとても感じられないもので。
とても強く欲しいと思った。
(舞様が、欲しい、身体も、心も、全部)
そう考えた瞬間、渇ききった心に、一陣の風が吹き抜けた。
『お前の舞を見る目は、男の目だ』
『舞を自分のものにしたいんじゃないのか』
秀吉の言葉が頭の中を駆け抜けていく。
名前の解らない、舞へ募る想い。
自分で制御が効かない程、惹かれて、焦がれて。
この渇いた心や身体を満たしてくれるのは何か。
それを、本能的に悟った気がした。
自分の中に足りなかった欠片は。
今、触れている、この存在だったのだ。
「舞様……っ」
三成は捕らえていた舞の手を解放し、そのまま両腕で舞の身体を抱きすくめた。
とても華奢で小さな身体。
でも、とてもとても温かい、優しい温もり。
「貴女が、欲しいです……」
三成の言葉に、舞はぴくっと身体を震わせた。
頭の上から聞こえる三成の荒い息遣いと、触れている熱い身体。
それに反するような切なげな声色に、思わず声が出なくなる。
「ずっと……心も身体も渇いたままでした、貴女に出会ってから」
三成はぽつりぽつりと呟くように話し始めた。
「何故だか理由が解らなくて、貴女を可愛いと思う度に、何かが物足りなくて、それでも自分で抑えられないほど、貴女に惹かれていく自分が居ました、苦しい程に」
「三成君……」
「どんな文献を読んでも、答えは書いて無くて。知らない事など無いに等しいと思っていたのに、己自身の事は何も解らないままで。でも……」
「でも……?」
三成は舞の身体を抱きながら、頬に片手で触れ、上を向かせる。
舞の瞳は、吸い込まれそうな程澄んでいた。
「悟った気がしました。私を満たしてくれるのは、きっと貴女自身なんです。だから、こんなに求めるんです、心も身体も、貴女の全てが欲しいと」