第37章 無防備な蜜、無自覚な蝶 / 石田三成
舞は静かに話を聞いていた。
やがて、二、三回まばたきをすると……
舞は遠慮がちに三成の身体に腕を回してきた。
そして、三成の胸に顔を埋め、小さな声で言った。
「なら……全部奪って」
三成は目を見開いた。
奪って、それはつまり……
「舞、様……?」
「私も同じ気持ちだったから、三成君と」
「え?」
「三成君に優しくされる度、私は物足りなくなっていった。もっと三成君が欲しいって、もっと触れて欲しいって、ずっとずっと思ってた……」
「……っ」
「でも、私は三成君と違って理由が解るよ。この気持ちの名前が」
舞はそっと顔を上げ、そして背伸びをすると。
触れるだけの口付けをしてきた。
驚く三成を、真っ直ぐに見つめ……
そして、その言葉を紡いだ。
「三成君を愛してるって事なんだよ」
――……コトン。
その言葉に、心が鳴った。
今まで心の中で欠けていた部分に、ピッタリと小片がはめ込まれた音が。
ずっと解らなかった、舞への想いの名前。
その正解、ど真ん中の部分を。
あっさりと言い当てられた。
とても……とても単純な事だったのだ。
「舞、様……っ」
三成は再度舞の身体をきつく抱きしめた。
伝えねばならない、やっと解ったこの想いを。
胸が詰まって、上手く息が出来ない。
「私も、舞様を、愛しています」
ようやく言えた、その言葉に。
舞は小さく微笑んで『うん』と優しく頷いた。
「すみません……無理、させてしまいましたね」
舞を部屋へと運び、褥へと寝かせると、三成はその痛めた足を優しく撫でた。
先程、壁際に追い込んだ事で、立って踏ん張っていた舞の足は、さらに赤く腫れ上がっていた。
自分の方が痛そうな顔をしている三成に、舞はくすくす笑いながら言う。
「大丈夫だよ、三成君の方が痛そうな顔してる」
「私のせいですから……」
「違うよ、私はこんな怪我より…心臓のほうがドキドキして痛い」
そう言うと、舞ははにかんだように頬を染めた。