第37章 無防備な蜜、無自覚な蝶 / 石田三成
「え、三成君?!」
三成が舞の部屋に行くと、褥で横たわった舞がびっくりした声を上げた。
起き上がろうとする舞を支える。
すると、手にも包帯が巻かれていた。
「怪我をしたと秀吉様から聞いて」
「うん、木から落ちちゃって」
「雛を助けようとしたんでしょう?」
「雛も木から落ちちゃったみたいで、助けて自分が怪我しちゃ意味ないよね」
舞が乾いた声で笑う。
三成は痛めた舞の手を、愛おしむように撫でた。
「雛は助かったのでしょう? 意味はありましたよ」
「三成君……」
「ただ、心配はしましたが」
そう言って優しく微笑む。
すると舞は少し俯いて、頬をほんのり染めた。
「ごめんなさい、心配してくれてありがとう」
(……可愛いなぁ……)
心の底からそう思った。
そしてその頬に触れたいと、反射的に手が伸びていた。
しかし、指が頬に触れる一寸手前で、舞が俯いていた顔をこちらに向けてくる。
三成は慌てて手を引っ込めて、知らない振りを決め込んだ。
「三成君、もしかしてわざわざ駆けつけてくれたの?」
「え?」
「眼鏡かけっぱなしだから」
「えぇと、これは」
少し気恥しくなって、素早く眼鏡を懐に仕舞う。
「文献を読んでいたので……」
「え、本読んでたのに来てくれたの?」
「読み終わったところでしたので、外し忘れました」
内心、舞の事で気が気でなかったのは内緒にしておく。
舞はふふっと笑っていた。
「でも、歩けないとちょっと不便だなぁ」
そんな不満そうな舞の声を聞き、三成はある事を思いついた。
舞の手を一回握ると、そのまま天使の笑みで言う。
「じゃあ、治るまで私が舞様の足になりましょう」
「え?」
「行きたい所へ、私が運んで差し上げます」
「いいよ、そんなの迷惑になっちゃう」
「いいんですよ、困った時は頼って下さいと、いつか約束しましたよね」
舞と初めて会った時に、そう約束した。
その時から、この小さな姫君を護りたいと。
そう強く思い始めたのは確かだった。
舞は少し困り笑いで微笑み。
「ありがとう、三成君」
そう、はにかんで言った。