第36章 琥珀が結んだ熱と君 / 徳川家康
「……それ関係あるんですか」
「一番重要だろ。 どうなんだ」
「…っ最近は、あまり……」
「今すぐ帰って抱いてこい、問題解決だ」
「政宗、その目は面白がってるだろ……」
野生的な目を爛々と輝かせる政宗に、秀吉は肩を掴んで押し止めた。
そして、改めて家康に向き直る。
「お前が任された足軽の訓練、そんなに忙しいのか」
「割と朝早くて、夜も遅いので、舞と生活が合わないんです」
「うーん、こればっかりはなぁ」
顎に手を当て少し唸ると、秀吉は何か思い立ったように顔を上げた。
「舞と恋仲になって、どのくらい経つ?」
「丁度、一年くらいですかね」
「じゃあ、一年の記念って事で、贈り物でもしたらどうだ? 女はそーゆーの大事にするからな」
「贈り物……」
「さすがタラシの秀吉、女の扱いに慣れてんな」
「お前ちょっと黙っとけ、政宗」
(贈り物か、成程……)
確かに舞にはあまり物を贈った事がない。
以前、耳飾りを贈った時の嬉しそうな顔を思い出す。
(あの顔、見たいな……)
そう思っていると、秀吉がさらに付け加えるように言った。
「舞の事だ、ささやかな物のがいいかもな」
「だったら家康、それに恋文か恋歌でも付けたらどうだ」
「恋歌なんて、書いた事……」
「なら、俺が書き方教えてやる」
「へぇ、それはいいな、政宗」
「だろ」
秀吉と政宗の間で、何故か話に花が咲く。
それを頭の隅で聞きながら、家康は考えを巡らせていた。
(ささやかな贈り物……ってなんだろう)
てか、それに恋文なんて付いたら、ささやかから大分離れる感じも……
そんな事を考えていると、いきなり秀吉が顔を覗き込んできた。
「あと、お前に助言するなら、家康」
「な、何ですか……」
「体調治してこい、顔色悪いぞ。 目は赤いし、熱もありそうだな」
「!」
「そーゆーの舞は見抜くぞ、気をつけろ」
そう言って、心配そうに言う秀吉。
ああ、この人が周りに好かれる理由は、こういう所かもしれない。
家康は、ぺこりと秀吉に頭を下げた。
「ありがとうございます、色々」
「気にするな、妹と仲良くやってくれ」
「家康、俺にもだろ」
「政宗さんも、ありがとうございます」
二人に相談して良かった。
家康はそう思い、口元を緩めた。