第35章 純恋花〜君が知らない罪と罰〜 / 豊臣秀吉
「じゃあ、続きは後でだな」
一回額に口付け、身体を離す。
本当はこんなものでは収まらないが、舞を困らす訳にはいかない。
「秀吉さんも晴れ着に着替えるの?」
「いや……大名が来るなら、俺は接待側だからな」
「そっか……じゃあゆっくり桜は見れないね」
少ししょんぼりしてるので、秀吉は頭をぽんぽんと撫で、耳元でそっと囁いた。
「その代わり宴会が終わったら、めいいっぱい甘やかすから…覚悟しとけよ? 今夜は寝かさないからな」
その言葉に舞は息を詰めて、恥ずかしそうに小さく頷いた。
その夜、夜桜の元での宴会は、それは賑やかに行われた。
隣国からの小大名達も何人か訪れているので、席を回っては白酒を酌しに行く。
料理も次々と運ばれ、腹も満たされる……筈なのだが。
秀吉はある事が気がかりで、ちっとも食べ物が喉を通らない。
それはと言うと。
「舞、こっちの松風焼きも食え、俺が作ったから美味いぞ」
「わぁ、いただきます」
「舞、杯が空いてる、注いでいい?」
「あ、家康ごめんね」
「白酒以外もあるぞ、舞」
「光秀さんのは、お断りしますっ」
(アイツら、いい加減にせぇよ……っ!)
秀吉の憎々しい目を他所に、政宗、家康、光秀の三人掛りで舞を囲っては、あれ食え、酒を呑めと……
舞も舞で断れないのか、なんとか三人を相手していると言う感じで。
てか、光秀。 お前も接待、手伝えや。
「おい、三成」
と、手が空いた様子の三成を捕まえる。
水の入った杯を手渡し、早口でまくし立てた。
「舞にこの水を持って行ってやれ、あのままじゃ泥酔まっしぐらだ」
「お水ですね、お任せ下さい!」
「あわよくば、舞を連れ出してこい」
「何故……楽しそうですよ?」
「危険だからだっ」
政宗には『絶対舞を落とす』宣言されている上に、家康も狙っているのが丸わかり。
光秀に至っては、腹が読めない。
心配この上ないし、舞に自分以外の男が触れるのが、本当に嫌で嫌で堪らない。
以前、嫉妬に狂って舞の身体を犯そうとした。
それ以来、みっともないから嫉妬は程々にと決めた筈なのに……