第34章 桜の追憶『狂想恋歌』 / 石田三成
「解りました……舞」
舞がふにゃりと笑う。
それだけで機嫌を直したようだった。
(可愛い……私だけの御姫様)
とても温かな気持ちになって……
三成はもう一度、柔らかな身体をそっと抱きしめた。
卯月、吉日。
伊達の紋付袴と言う正装を身につけた政宗。
三成を探して、安土城内をうろうろとしていた。
「どこ行ったんだ……あ」
と、天主に近い所で三成を発見すると、大声で名を呼びながら近づいた。
「おい、三成!」
「政宗様」
いつもの平和そうな笑顔で政宗のほうに向き直る。
政宗は三成の格好をしげしげと見つめ……
ちょっと不機嫌そうに言う。
「見れば見るほど奇天烈だよな、その衣装」
「あはは。 舞が居た世の花婿の衣装だそうで……縫ってくれたからには着るしかないでしょう」
「似合うのがムカつくんだよな」
「ありがとうございます、政宗様」
「頭下げるな、褒めてねぇ」
虫の居所が悪そうな政宗は、そのまま三成の額を指でぴんっと弾き、そのまま告げた。
「花嫁が準備整ったってよ。 行ってやれ」
「えっ、本当ですか? 呼びに来て下さって、ありがとうございます」
「おい、三成!」
速攻走って行こうとした三成を、政宗は肩を引いて止める。
三成は振り返って、不思議そうな目で政宗を見た。
政宗は瞳を蒼い炎で燃やし、三成を睨みながら言った。
「いいか、お前は信長様からも、秀吉からも、この俺からも舞を奪って行ったんだからな。 腹切る覚悟で、舞を幸せにしろよ、いいな」
三成は一瞬、きょとんとして……
そして、力強く微笑んだ。
「勿論です、政宗様。 舞を世界一幸せにします」
「泣かすなよ、絶対」
「はい」
「言っとくけど、今俺が奪って逃げてもいいんだからな」
「それは、駄目です」
間髪入れずに答えた三成に、今度は政宗が目を丸くし……
そして、不敵に笑って手でしっしっと振り払った。
「ほら、さっさと行け」
「はい、ありがとうございます!」
三成は天使の笑みで一礼し、そのまま走り去る。
政宗はその後ろ姿を見送りながら……
後ろ頭をかいて、ため息をついた。
「まさか三成に取られるとはな、まぁ舞が幸せならいいか」