第4章 家康流、愛する人を甘やかす方法 / 徳川家康
舞は、忙しい家康を労うために、針子の仕事を終えては、毎日のように政宗の元へ通い、料理を習っていたと言う。
それはそれは一生懸命だから、政宗も羨ましいと思う程だったとか。
家康をびっくりさせたいから内緒にしてね、と。
だから政宗も、料理を習いに通っている事は、家康には教えなかった。
ある日、政宗が台所に一人舞を残し、その場を離れた。
その時、不意に目眩に襲われた舞は、湯を沸かした鍋をひっくり返して被ってしまい……
腕と太ももに火傷を負ってしまった。
利き腕だった為、痛さで針も持てない状態だったと言う。
(だから、あの時、俺の依頼を断ったんだ)
それだけじゃない。
他の男と会っていたのか、と言う問いに答えなかったのは。
多分、内緒で政宗の元に行っていたと言う罪悪感からで。
腕を振り払ったのは。
火傷に触られたく無かったから。
舞の事だから、自分がひどく心配すると思ったのだろう。
(舞の馬鹿、大馬鹿)
早く舞に逢いたい。
逢って、抱き寄せて、ごめんと言いたい。
家康は野原に向かい、夢中で足を走らせた。
野原に着く頃には、既に太陽は沈みかけ、夕刻の風景だった。
色とりどり、大小の花が咲き乱れる中……
ぽつん、と一人座り込む舞の姿があった。
「舞……っ」
名を呼び、駆け寄ると。
「家康?!」
舞は振り向いて、びっくりしたような声を上げた。
全力疾走してきたせいか、息が切れる。
呼吸を整え、舞の顔を見ると……
きっと泣いたのだろう。
涙が伝った筋が、頬に残っていた。