第4章 家康流、愛する人を甘やかす方法 / 徳川家康
「あ、そうだ。 家康」
何かを思い出したように、政宗は離れようとしている家康を捕まえた。
首根っこを捕まれ、家康はぐっと息が詰まる。
「なんですか、痛いんですけど」
家康が怪訝な顔で言うと、政宗は不敵な笑みを浮かべた。
「舞の飯は美味かっただろう」
(ん?)
なんの話をしてるか見当もつかない。
そもそも、今名前を出されたくない。
「なんの話ですか」
「あ、悪い。 まだ食って無かったか。そりゃそうか。舞、まだ火傷治ってないだろうし……」
(……は?)
今、この人なんて、言った?
「舞が……火傷?」
「家康、お前…… 知らなかったのか?」
家康は反動的に、政宗の胸ぐらを掴んだ。
政宗が体勢を崩して、ぐわっと吠える。
「政宗さん、その話、詳しく教えてくれますか」
「舞? 舞なら城下町の野原に行ったぞ。 もう暗くなるから、行くなら早く帰って来いって伝えてくれるか。 信長様も心配なさってるし、俺は迎えに行けないから……って、家康! 話は途中だぞ、廊下を走るなっ」
城下町にある、野原。
そこは家康にとっても舞にとっても、思い出の場所だった。
初めて手を繋いだのもここだし、想いを交わしたのも、初めての口付けも。
舞はまだ、この場所を大切に思ってくれている。
それだけで家康の心は愛しさで満たされた。
政宗から聞いた真実。
それは、舞がいかに自分を想っていてくれたのか……
それを有り有りと証明するものだった。