第32章 弥生月の願い鶴 / 豊臣秀吉
「これから秀吉さんを、温泉にご招待します!」
『どうだ!』とばかりに目を輝かせる舞。
それを見て、三成も嬉しそうに頷いているし……
「温泉?」
「うん、ちょっと遠出になるんだけどね」
「この前、近隣の村に温泉が湧いたと報告がありまして。 舞様も視察に同行されたのですよ」
三成が嬉しそうに説明してくれた。
最近忙しそうだと思っていたら、舞はそんな事をしていたらしい。
「とっても素敵な温泉なの、お祝いにぴったりだなって」
「それは凄いな、ありがとう」
「ゆっくりと過ごされてくださいね」
馬にまたがり、秀吉は舞を馬上に引き上げる。
そんな二人の様子を、三成は眩しそうに見つめていた。
「三成くん、いろいろありがとう。 みんなにもお礼を言ってね」
「お任せ下さい」
「お礼?」
「うん」
何やら企んでいそうな物言い。
まぁ、舞になら踊らされるのも悪くないけれど。
秀吉と舞は三成に見送られ、御殿を後にした。
馬を走らせ、一刻ほど。
舞の案内する通りに、安土の領土内にある近隣の村にやって来た。
山のふもとに温泉は湧いているらしく、側には宿もあった。
宿の一室で荷を降ろし、浴衣に着替える。
小綺麗で、割と広めの部屋に、秀吉は感嘆のため息をついた。
「落ち着いていて、いい宿だな」
「でしょう?」
「で、舞」
「はい?」
「その荷物はなんなんだ?」
先ほどから思っていた事。
それは、舞が大量の荷物を持ってきていた事だ。
大きな風呂敷包みが二つも。
持つと言っても、持たせてはくれないし……
すると、舞ははぐらかすように言った。
「こ、これは、なんでもないよ、うん! あ、秀吉さん、温泉入って来なよ。 それがいい!」
ものすごく不自然だが、とりあえず荷物の事は置いといて、舞の話に乗る。
「もちろん入るけど、一緒に入らないのか?」
「私、やる事があるから、先に入ってて。 すぐに行くから」
「恥ずかしいから一緒に入らないとかは無しだぞ」
「も、もちろんだよ」
話をするだけで赤くなるし。
本当は強引に連れていきたいとこだが、舞を信用し、秀吉は一足早く温泉に向かう。