第32章 弥生月の願い鶴 / 豊臣秀吉
(……そろそろ我慢も限界なんだよな)
少し寂しく思っていると、ぱたぱた……と走ってくる音が聞こえ、部屋の前で止まったかと思ったら、襖が静かに開かれた。
「あ、秀吉さん、おはよう!」
姿を現したのは舞だった。
自分の姿を見て、ぱぁっと目を輝かせている。
何日かぶりに見る舞の笑顔に、心が温かくなった。
「おはよう、舞」
「秀吉さん、お誕生日おめでとう!」
「ああ。 ありがとう」
秀吉は、傍に座った舞の頭を優しく撫でる。
舞は気持ち良さそうに目を細め、少し頬を赤らめた。
(ああもう、可愛いな)
思わず抱き寄せて、温かさを確認する。
久しぶりに感じる体温に、情けないほど身体が疼いた。
「あのね、秀吉さん」
「なんだ?」
「今日はお誕生日だから、贈り物を用意したよ」
「贈り物?」
「うんっ、だから着替えて御殿の外に来て。 先に行って待ってるから」
舞が少し身体を離し、秀吉の顔を覗き込んだ。
少しいたずらっぽい、わくわくした表情。
ああ、今日を楽しみにしていてくれたんだな……と改めて思い、秀吉は優しく頬に口付けを落とした。
「じゃあ、すぐに着替えるから」
「うん、私は先に行って……」
「その前に」
秀吉は舞の言葉を遮り、軽い身のこなしで舞を押し倒した。
目を白黒させる舞の首筋に吸い付くと、身体がびくっと跳ねる。
「ひ、秀吉さん……っ」
「すぐ着替えるから、少しだけ……な?」
「あ……っ」
着物が乱れない程度に、身体に手を這わせる。
舞の柔らかな感触に、少しばかり酔いしれ……
秀吉は今まで足りなかった分の、心の補充をした。
「舞に……三成?」
秀吉が支度を整え、御殿の外へ出ると、門で馬と一緒に舞と三成が談笑していた。
と、舞がこちらに気が付き、手を振る。
三成も、ぺこっと頭を下げた。
「おはようございます、秀吉様。 改めまして、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。 どこか行くのか?」
すると、舞と三成は目配せをし……
やがて舞が満面の笑みで行った。