第31章 可憐気パンデミック / 明智光秀
「既成事実を証明したのは、お前自身だぞ……舞」
光秀はゆっくりとした足取りで、舞を部屋に運び入れ……
そして、優しく畳に寝かしつけた。
そのまま舞に覆いかぶさり、手の甲にちゅっと口付ける。
目を覚まさない舞に、光秀はくすっと笑い、帯に手を掛けた。
「悪い子には……お仕置きだ」
口調はいつもの意地悪なままだが、その瞳は……
抗えない熱に、揺れていた。
舞は夢を見ていた。
真っ暗な中に独りぽつんと居る自分。
そこに、ぼやぁ……と光が生まれ人の形を映し出す。
『舞、こんな所で寝ていると風邪ひくぞ?』
そう言葉を放ち、その光は温かな手となって、頭を優しく撫でた。
(ああ、これは……)
『秀吉さん、今、起きる……』
いつもこうして起こされていた。
だから、当然秀吉だと思った。
舞が手を伸ばし、その光に触れると……
とても柔らかい髪の感触がして、その光は、今度はこう言葉を放った。
『おい、舞。 誰が猫っ毛だって?』
(あれ、これは……)
『政宗は、髪が柔らかいから……』
秀吉ではなく、政宗だったのか。
この髪の感触は、確かに政宗のものだ。
でも、何か違和感がある。
秀吉でも政宗でもない、もっとこう……
自分に近くて、愛しい存在。
その触れている光が舞の手を取り、甲に優しく触れる。
その甘く熱のある感触に……
舞は一気にその正体に辿り着いた。
『悪い子には……お仕置きだ』
そう囁いた声は、刺すような熱を孕んでいて。
身体の中心から、疼くように焼き尽くす。
『光秀さん……っ!』
「…………っ!」
舞は深い意識の底から、引き上げられるように目を覚ました。
目に映るのは自室、障子から射し込む陽の光。
そして。
自分に覆いかぶさる、淡色の髪をした……
「光秀、さん……?」
舞がゆっくり問いかけると、舞の胸元から、ちゅ…っと唇を離し、意地悪く微笑んだ。
「起きたか……やっと」
舞は目を丸くさせる。
そして、今置かれている状況に、息を詰まらせた。