第30章 純恋花〜君に狂った花になる〜 / 豊臣秀吉
「……っごめん、舞、ごめん……っ」
なんて顔をさせてしまったのだろう。
こんな泣いた顔は、絶対見たくないのに……
秀吉は勢いに任せて、舞を怯えさせた事を酷く恥じ、とても後悔した。
「……格好悪いな、俺」
少しの沈黙の後。
舞を抱きしめたまま、秀吉は耳元でぽつりと呟いた。
「お前に怒ってるんじゃない、自分に…一番腹が立ってるんだ」
「え……?」
「お前の事が好きで、可愛いくて可愛いくて仕方なくて、ちょっとした事にヤキモチ焼いたり、大人な態度を取れなくなったり……一番みっともないって、解ってるんだ」
「秀吉さん……」
「家康に、もっと素直になれって言われたよ。 でも……こんなのは違うだろう?」
怒りに任せて、舞を抱こうとした。
そんなんで身体を重ねても、ちっとも嬉しくないのに。
欲しいだけでは、幸せにはなれない。
舞は秀吉の腕の中で、静かに言葉を聞いていた。
「……秀吉さん」
舞が小さな声で名前を呼んだので、秀吉は少し身体を離して舞の顔を見た。
すると。
(…………っ)
目が合った瞬間、舞は頭を持ち上げ、唇を重ねてきた。
少し触れるだけの柔い口付け。
それでも、秀吉の心を乱すには充分過ぎて……
目を見開いて絶句していると、舞は潤む目を向けながら言った。
「ありがとう、嬉しい」
「え……?」
意味が解らず、その目を見ていると、舞は微かに微笑みながら言葉を続けた。
「ヤキモチ焼くのは、私ばかりって思ってた。 秀吉さんは誰にでも優しいし、モテるでしょう? だから……私はいつもヤキモチを焼いていたよ、妹だった頃からずっと」
「舞……」
「それに、秀吉さんは無欲で、いつも大人で……取り乱したりとか全然しないから。 だから、そういう一面が見れて、すごく嬉しいの」
「…………っ」
どうして、こうも簡単に舞は自分の上を行くのだろう。
(……敵わねぇな、舞には)
秀吉はこつんと額をくっつけ、そのまま舞に本音をぶつけた。