第27章 不機嫌と暁の予知夢 / 織田信長
「……なぁ、光秀」
暫しの沈黙の後。
秀吉は、意を決したように光秀に切り出した。
「今の信長様をどう思う?」
「どう……って」
「俺は、思うんだ」
天主の入り口をじっと見つめる。
そして、何かを思い出すように……ぽつりぽつりと話し始めた。
「信長様はいつか天下を取るお方だ、信長様が描く世の中はきっと来ると信じている。その為に身を粉にする事は変わってない……でも、舞と一緒に居る時の信長様を見ていると、ふっと思うんだ」
「……何を」
「信長様も……一人の男としての幸せを掴んでいいんじゃないかって」
舞が安土に来るまで。
あんなに優しく笑う信長を見た事は無かった。
舞が口を聞かないと相談してきた時や。
眠ってしまった舞を、抱いて運ぶ時の穏やかな顔も。
魔王だって人間だ。
全てを背負って感情を殺さなくても、人としての笑ったり、泣いたりしてもいいのではないかと。
すると光秀は、はぁっとため息をついて秀吉に言った。
「お前にそんな余裕があるのか?」
「は?」
「お前が舞に想いを寄せている事に、俺が気づかないとでも思っているのか」
その言葉に、秀吉は一瞬豆鉄砲を食らったような顔になったが……
やがて、光秀に切なく笑いかけた。
「あの二人の間に、俺の入る余地があると思うか?」
「男なら奪い取れ。 相手が天下人でもな」
「秀吉、光秀」
と、その時。
凛とした威厳のある声に、二人は思わず背筋が伸びた。
見ると、天主の奥から信長が歩いてくる。
二人は、さっとひざまずいて一礼した。
「遅くなって悪かったな。 宴会に向かう」
「畏まりました」
「舞が目を覚ます頃には、俺はもう居らぬ。 秀吉、俺が地方に行ってる間、面倒を見てやってくれ」
「あの、御館様」
秀吉は、少し申し訳なさそうに信長に問いかけた。
「御館様の天下取りに、俺はついて行っていいんですよね」
信長は一瞬、憮然として……
やがて、当然の如く言った。
「貴様がついて来なくて、誰がついて来るのだ。 貴様の命は俺の物だ、俺が天下を取るまで、俺の為に生きろ」
秀吉はそれだけで納得したようで。
力強く頷き、信長の後ろ姿を追った。