第26章 戯れと高まりの先の君 / 明智光秀
「どうしたんですか?」
舞が近づき、不思議そうな視線を向ける。
光秀はちょっと苦々しい口調で言った。
「……戸が開かない」
「え?」
「さっき戸が閉まった勢いで、止めておいた鍵が、降りてしまったようだな」
「……どーゆー事ですか?」
「この倉庫の閂(かんぬき)は片側だけ固定されていて、固定されてない方を上に上げて、鍵を開けるようになってるだろう」
そこまで説明すると、舞は気がついたようで。
顔を真っ青にして叫んだ。
「鍵がかかっちゃったんですか?!」
「ああ、中からはどうしようもないな…外から開けてもらわない事には」
すると、舞は両手を握り、こぶしで思いっきり戸を叩いた。
「誰か、いませんかーっ!」
「無理だろう、御殿の裏なんて殆ど誰も来ないからな。 しかも、もう陽が暮れるし」
「誰も気がつかなかったら、どうするんですか?!」
「舞、お前がここに来ている事、誰か知らないのか?」
そう言うと、舞はしばし考え……
やがて、ぱぁっと顔を輝かせた。
「来る途中に、秀吉さんに会ってます! これから光秀さんの所へお片付けに行くと言いました」
「じゃあ、しばらく経ってお前が帰らないのが解れば、捜しに来るだろう」
「あ……光秀さん、頭いい!」
少し考えれは解ると思うのだが……
阿呆なほど単純なところも可愛いと思ってしまう辺り、中毒かもしれない。
光秀は舞の頭をぽんっと一回撫でると、倉庫の奥へと足を踏み入れた。
「光秀さん、何してるんですか?」
「何か使えそうな物がないかと…これはいいな」
と、箱から何かの布切れを引っ張り出す。
そして、床にある物を簡単にどかすと、下に敷いた。
「これなら少しくつろげるだろう、横にもなれるしな。 舞、少し休んでおけ」
「あ……ありがとうございます」
「掛ける用に、もう一枚あるといいんだが……」
「大丈夫……っくしゅんっ!」
舞が可愛いクシャミをする。
よく見れば、唇が紫になっているではないか。
「寒いか?」
「大丈夫です」
「嘘をつけ、唇が紫になってるぞ」
光秀はそう言うと、羽織を脱ぎ、舞の身体にまとわせた。