第26章 戯れと高まりの先の君 / 明智光秀
すると、舞はびっくりしたように光秀を見た。
「大丈夫です、光秀さんが風邪ひいちゃいます!」
「ひいたら看病してくれればいい」
「でも……っ」
「いい子なら、着ていろ」
ちょっとあやすように言うと、舞は大人しくなって、敷いた布の上に腰を降ろした。
そして、上目遣いで立っている光秀を見た。
「な、なんか……」
「どうした」
「さっきから優しいなぁと思って……」
その言葉に、少し面食らう。
『優しい』なんてあまり言われ慣れていない。
送られる視線がやたら熱っぽいのを感じ、光秀は居心地が悪くなって、目をそらした。
(何故そんな目で見る……)
そういう目で見られると変に期待してしまうので、出来ればやめて欲しい。
すると、舞はそのまま言葉を続けた。
「光秀さんって、好きな人いるんですか?」
「……何を突然」
「光秀さんはいつも意地悪な事ばっかりするから、そんな光秀さんにも素直になったりする相手がいるのかなぁって」
「……」
思わず口ごもって舞に視線を戻すと、舞はまだこちらをじーっと見つめたままだ。
吸い込まれそうなほど、綺麗な瞳を見ているうちに、何故か堪らなくなって……
光秀は舞の傍で腰を降ろすと、そのまま舞の顎を捕らえた。
そして、そのまま自然な流れで舞の唇に、己の唇を重ねた。
「…………っ!」
舞の目が大きく見開かれる。
ちゅっちゅっと、何回かに分けて唇をついばむと、次第に舞は表情を蕩けさせた。
(……まずいな)
舞の表情で、本能的にそう察した光秀は、唇を離し舞に背を向けた。
「……戯れだ、気にするな」
その言葉が精一杯の思いやりだった。
一歩踏み込んで、境界線を越えてしまったら、きっと戻れなくなってしまう。
なのに……
「……っ!」
背中に温かなぬくもりを感じ、光秀は思わず息を呑んだ。
見ると、舞の細い腕が身体に回されている。
背中から抱きしめられた、と思うや否や、舞の震えた声が聞こえてきた。