第3章 愛しい爪先に口付けを / 伊達政宗
舞の部屋まで来ると、部屋の前で一人佇む光秀の姿があった。
二人に気がつくと、光秀は不敵な笑みを浮かべた。
「随分と遅かったな、待ったぞ」
「光秀……」
「そう怖い顔をするな、説明してやろうと待っててやったんだ」
光秀は近づくと、抱かされている舞の顔を覗き込む。
喘ぐような息遣い。
瞳は潤み、焦点が定まっていない。
なんとも男心をそそる顔をしていた。
「ほう、想像以上だな、これは」
「光秀、お前、舞に何をした。 返答次第では、斬る」
今にも食いつきそうな勢いの政宗に、光秀は若干圧倒されながらも、怯まずに言葉を続けた。
「俺は舞が悩んでいるようだったから、手助けをしてやっただけだ」
「これが手助けか?」
「まぁ、聞け。 舞には、これと同じ物を飲ませた」
と、懐から取り出したのは、小さな小瓶。
薄桃色の液体が入って、見るからに怪しそうだ。
「これは明朝の商人から買った。 詳しい説明は省くが…解りやすく言えば、強烈な媚薬だ」
「な……」
「明朝の珍薬らしい。 飲んだら最後、薬の効果が切れるまで、理性を狂わせ、身体は熱く疼き……誰かに慰めてもらうまで治まらないとか」
慰めてもらうまで治まらない。
それは、つまり……
政宗は、ぎりっと奥歯を噛んだ。
「なんで、そんなものを飲ませた」
「舞が、お前の事で悩んでいたからだ」
(……は?)
一瞬面食らう。
光秀は、それを見て真面目な口調で続けた。
「舞は、自分が想う気持ちばかりが大きいようで、辛いと悩んでいた。 俺は、少しでも舞が救われればと思っただけだ。 まぁ…考え方によっては諸刃の剣だが」
「光秀…」
「政宗、今この娘の熱を治めてやれるのはお前しかいない。 想って抱いてやれ、舞が満足するまで」
そう言って光秀は、政宗の懐にそっと小瓶を忍ばせた。