第23章 素直になれない君が好き / 織田信長
振り返ると、見慣れない男達が立っていた。
ぱっと見た感じ、旅の商人か何かか……
あまり見慣れない姿に、舞は首を傾げた。
「あの……」
「舞とは、お前か」
突然の上からの物言い。
ちょっとびっくりしながらも、首を縦に振った。
すると。
「きゃ……っ」
突然、後ろから羽交い締めにされる。
声を出そうとしたら、口を布で塞がれた。
(な、何?!)
いきなりの事に、舞は身を固くした。
疑問符ばかりが頭を飛び交う。
一体何が起きたと言うのか。
すると、微かにもがく舞に、男の中の一人が顔を覗き込みながら言った。
「お嬢さんには罪はないが……これも我が主君の為。 大人しく餌となってもらおう」
――― ドンッ!!!
「ふぐ……っ!」
お腹を殴られた、と思った時にはもう遅かった。
一瞬にして意識が遠のく。
(信、長、様……)
『舞』
落ちていく意識の中、あの方が呼ぶ声だけが、頭にこだましていた。
「舞、居るのか」
信長は、舞の部屋の前で、中にいるであろう舞に声をかけた。
舞の事が気になって、気が気でない。
そんな自分に苛立ちを覚え、部屋まで来てしまった。
が、いくら待っても返事が無い。
秀吉の話だと、部屋で塞ぎ込んでいるのではないのか。
「舞、居ないのか」
待っていられず、襖を開けた。
部屋の中を伺うが、そこはもぬけの殻。
綺麗に整頓されたその部屋に、舞の姿はなかった。
(…………居ないではないか)
少しがっかりしていると。
「御館様?」
後ろから声がしたので振り返った。
いつの間に来たのか、秀吉がこちらの様子を伺っていた。
「秀吉、舞はどうした」
「あれ……帰ってきてないのか」
「どうしたと聞いている」
「女中の話だと、昼間市に出かけると言って、久しぶりに部屋から出てきたらしいんですが……おかしいな、もう戌の刻も過ぎるのに」
(帰ってきてないだと?)
ふと、昼間の軍議の話を思い出す。