第23章 素直になれない君が好き / 織田信長
「秀吉、舞はどうした」
軍議の席で、信長は秀吉に怪訝な視線を送った。
呼んだ筈の、舞の姿が見えない。
秀吉は軽く頭を垂れ、信長に言う。
「来ないと舞付きの女中が」
「昨晩の宴の席にも来なかったな、具合でも悪いのか」
「いえ、どうやら最近、塞ぎ込んでいるようで……」
「何故」
「理由は解りませんが、ここ数日、針子の仕事も休み、部屋に籠りがちと聞いております」
信長はいぶかしげに眉を寄せたが、やがて何かを振り払うように頭を振り、家臣に向き直った。
「悪い、余談だ。 家康、族の動向はどうなった」
「はい」
今度は家康は信長に頭を下げる。
「最近城下を荒らしている族ですが、この前謀反で捕らえられた大名の家臣だったと解り……。恐らく、まだ復讐の機を狙って、城下内に潜んでいるものと思われます」
「足取りは追えるか」
「普段は変装しているのか、怪しい輩はの報告は上がっていません。 変わらず、城下の見張りは続けます」
「……そうか」
信長は半分うわの空で聞いていた。
舞の事が気にかかって……舞に最後に会ったのは、あの甘味を渡しに来た時だ。
『別に、信長様になんて、作らないし!うぬぼれないでください……っ』
「なんで、ああも素直じゃない……」
「信長様? どうかなさいましたか」
「いいや、何でもない」
(何故こんなに気になる……俺もらしくもない)
苛立ちを隠すように、信長は大きくため息をついて、額に手を当てた。
(あーあー……憂鬱だな……)
舞は久しぶりに市に来ていた。
ずっと部屋に籠っていたので、ちょっと気分晴らしに……と出てきたのだが。
何を見ても、聞いても、心はうわの空。
結局、どこにいたって頭の中は信長の事ばかりだと言う事に気がつく。
(駄目だ、根本的なとこ直さないと、全っ然気晴らしになんかならない……っ)
せめて一言、信長に伝えたい。
可愛くない事言って、ごめんなさいと。
そして思いっきり、貴方が好きです、と言いたい。
そう思って、露店を見て歩いていると……
「お嬢さん」
後ろから、誰かに声をかけられた。