第23章 素直になれない君が好き / 織田信長
(馬鹿、私って本当に馬鹿……)
その夜、風呂敷包みを片手に、舞は天守に向かっていた。
ため息しか出ない。
どうしてあんな事を言ってしまったんだろう。
恋敵の手助けなんて、本当はしたくないのに。
舞は手に持っている包みに目を落とす。
渡されたのとは別に、もう一つ、小さな紙包み。
それがまた、ため息の原因だった。
(私もちゃっかり、信長様に作ってきちゃったんだよね……)
便乗するみたいで、なんだか自分がとても嫌な子に思えた。
昼間は嘘を付いてしまうし……
『少しでも、お目にかかる時があればいいのに』
昼間の、針子仲間の顔を思い出す。
(私も……あの子くらい健気になれたらな)
「信長様、失礼します……」
声をかけて、天守にある信長の自室に足を踏み入れると。
信長は月明かりの下、一人で酒杯を傾けていた。
「……舞か、こっちへ来い」
舞に気がついた信長が手招きをする。
舞は静々と近寄り、信長の隣にちょこんと座った。
「貴様からここへ来るなんて珍しいな」
「は、はい、信長様に渡す物があって……」
風呂敷包みを、信長の目の前に置く。
ついでに、自分で作ってきたほうの小さな紙包みも、ちょっと離して置いた。
「針子仲間の子が信長様に甘味を作ったと言うので……預かってきたんです」
「ほう、甘味か」
信長は長い指で風呂敷包みを開く。
白い箱の蓋を開けると、色とりどりの砂糖菓子が入っていた。
(わぁ、すごい……!)
思わず目を奪われる。
それは信長も同じだったようで、感心したように息をついた。
「こちらもか?」
信長は、舞が作ったほうの小さな紙包みにも手を伸ばした。
舞は反射的に、信長より先に紙包みを奪い取り、背中に隠す。
(こんなの見たら、私のなんて……)
「こっちは……えぇと、なんでもないです」
「…………」
信長は一瞬怪訝な顔をして、舞に身体を寄せた。
そして耳元で囁く。
「そちらも見せろ」
「……っ」
背中にぞくりと痺れが走る。
動けずにいると、信長が手から包みを奪い取った。