第23章 素直になれない君が好き / 織田信長
「昨日、鷹狩りに向かう信長様を見かけたの」
「本当に?」
「いつ見ても端麗なお姿で……一言でいいから、お話してみたいわ」
信長の話で、花咲く針子場。
口々に信長を褒めあって、きゃあきゃあ騒ぐ仲間達を見ながら、舞は小さくため息をついた。
(信長様が素敵な事は、私が一番よく知ってる)
安土城で世話になってる身の上、信長とはしょっちゅう顔を合わせている。
何故か軍議にも呼ばれるし、宴だったり、夕餉を一緒に取ったり……
それでなくても、囲碁だなんだと、信長は何かにつけて構ってくれた。
その時に見せる優しい眼差しや、言葉や……
それに惹かれない訳もなく。
いつの間にか、心は丸ごと奪われていた。
「ねぇ、舞さんは安土城で生活しているんですものね」
「信長様とお話したりしないの?」
突然、話の矛先を向けられ、舞は思わず背筋が伸びた。
そして、ちょっとしどろもどろに言う。
「信長様はとっても怖い人だよ、冷たいし」
「そうなんだ、やっぱり」
「あの方の笑った所なんて、見た事がないものね」
(嘘ついちゃった、私の馬鹿!)
妙に罪悪感が生まれた。
しかし、自分以外には優しい所なんて知ってほしくない。
「私、渡せないと解ってるのに、信長様に甘味を作ってきてしまったの」
と、一人が部屋の隅から風呂敷包みを引っ張り出した。
「少しでも、お目にかかる時があればいいのに……」
「…………」
その、なんともひたむきな眼差しと声色に。
舞の心は揺らいだ。
気がつくと、心にも無い言葉が口をついて出た。
「良かったら、私が渡そうか」
「本当に?」
「うん、私のが渡す機会あるかも」
「さすが舞さん! 頼りになる!」
キラキラした笑顔で、手を握られてしまい……
今更、嫌だとは言えなかった。
舞は『任せといて』と呟き。
愛想笑いを浮かべるしかなかった。