第21章 甘味よりも甘い物 / 明智光秀
『貴方に渡したい物があります。
城下の外れにある湖で待ってるので、良かったら来てください。
あと、この前はごめんなさい』
(謝るのは、俺の方だと言うのに)
光秀は文を握りしめ、湖へ向かった。
今更、合わす顔など無い。
でも、舞に会えると思うと心が踊った。
(傷つけたのに、まだ好きなのか、俺は)
自分自身に呆れながら、湖に着いてみると。
すでに、夕陽が傾きかけ、水面が光を受けて赤く光っていた。
そんな湖畔にある、一本の梅の木。
そこに、ずっとずっと会いたかった、その娘の姿があった。
「光秀さん……」
舞が、こちらに気がついて、ぺこりと頭を下げる。
そのまま近づくと、少し距離を置いて話しかけた。
「どうした」
「光秀さんに……渡したい物があって」
「それは文を読んで知っている」
舞は懐から小さな包みを取り出し……
両手で光秀に差し出した。
「受け取って、ください……」
「それが渡したい物か」
「はい……甘味です」
「甘味?」
「今日、2月14日は何の日か……覚えてますか?」
そう言われ、舞との会話が蘇る。
『2月14日はバレンタインデーなので』
『ばれんたいん?』
『2月14日は、女の子が好きな人に甘味をあげて、気持ちを伝える日なんです』
(まさか……)
反射的に舞の顔を見る。
舞は真っ赤な顔をして、消え入るような声で言った。
「好きです」
思わず、目を見開く。
すると、舞はもう一度はっきりと言った。
「光秀さんの事が、好きです」
何も言えず舞を見る。
舞はまっすぐ瞳を見つめ、言葉を続けた。
「今日しか言う機会がないと思って、一生懸命作りました。 この前は……びっくりして逃げてしまって、ごめんなさい」
「舞……」
「光秀さんは、私の事どう思いますか? 光秀さんから見たら、私はまだ子どもかもしれないけど、それでも、私は……っ」
「……っ」
言葉に詰まった。
気がつくと、手を伸ばし、舞の頬に触れていた。