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【イケメン戦国】燃ゆる華恋の乱

第21章 甘味よりも甘い物 / 明智光秀





舞は泣いていた。
唇を噛みしめ、必死に声を殺して。

頬には涙が伝い……
思わず、その表情に釘付けになる。



「舞……」



手が微かに緩んだのを感じ、舞は腕から逃げ出した。

髪も着物も乱れたまま、一目散に走り去る。
光秀は、ただ呆然とその後ろ姿を見ていた。



(何をしようとした、俺は)



今まで舞を掴んでいた手に、目をやる。
温かな温もりがまだ残っている気がして……
その手を握りしめた途端、後悔の念が湧いた。



(舞に、あんな顔をさせるなんて)



舞の泣き顔が、頭に焼き付いて離れない。

あの柔らかな身体を押し倒して。
その後、どうするつもりだった?



「……舞……」



名前を呼んでも、もう誰もいない。
どうする事も出来ず、光秀はその場にうなだれた。






















「光秀」


安土城の書庫にいた光秀に、秀吉は声をかけた。
光秀は一回視線を秀吉に移したが、直ぐに本に目を戻す。


「なんだ」
「舞と喧嘩でもしたのか」
「知らん」


さらっと嘘をついて誤魔化す。


舞は、あれから姿を見せていない。
御殿にも来なくなった。



(当然だ。 自分を手篭にしようとした男の所なんて来る筈がない)



秀吉はひとつ大きくため息をつき、話を続ける。



「まぁ、何でもいいが……舞からお前宛の文を預かってきた」
「文?」
「ああ」


秀吉から文を受け取る。
表には綺麗な字で『光秀さんへ』と書かれてあった。
確かに舞の字だ。


「舞、鉄砲の本を借りにお前の御殿へ行っただろ」
「それがどうした」
「光秀の事を教えろって言うから、鉄砲が特技だと教えた。あと、茶の湯が趣味だと」
「……何が言いたい」
「舞の気持ちを、少しは察してやれ」


そう言うと、秀吉は光秀の肩を軽く叩き、去っていった。


全く意味が解らず、光秀は怪訝な顔になる。
気持ちを察しろ、とは、どういう事なのか。



(人の内面を探るのは、得意なんだがな)



光秀はそう思い、文を開く。

『前略 明智光秀様』

そんな書き出しから始まった文は、短くこう書かれてあった。

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