第16章 ゆりかご揺れる夜には / 豊臣秀吉
「舞……?」
「……秀、吉、さん……」
うわ言のように舞は呟いた。
そして、舞の頬に一筋涙が伝う。
「……行かないで……っ」
(…………っ)
秀吉はしゃがみ込んで、舞の手を取った。
その手も燃えるように熱く……
秀吉は、空いてるほうの手で、ひたすら舞の頭を撫でる。
「大丈夫、俺はここに居る」
「……秀吉さん、行かないで……」
舞は無意識にそれだけを繰り返す。
熱に浮かされているように。
(くそ……っ、どうすればいい)
こんな舞を置いて、人なんて呼びに行けない。
しかし、このまま放っておいたら舞が危ない。
頭を思考回路を張り巡らせ、なんとか最善の方法を探す。
その時だった。
秀吉の頭に、家康とのある会話が蘇った。
『人肌で熱を吸わせて高熱を下げる治療法か』
『どうしようもない時、結構有効なんです。
俺は勘弁だけど』
『なんで』
『男と裸でくっつくのはごめんです』
『まぁ、確かにそれは俺も嫌だ』
『舞ならいいですよ』
『馬鹿、舞は俺のだ』
(人肌に熱を吸わせて、高熱を下げる……)
心で確認するように呟く。
しかし、今それが有効なのかは解らない。
高熱以外に、もっと原因があるかもしれないし。
しかし。
「……秀、吉、さん……」
舞はひたすらに名前を呼んでいる。
苦しい筈なのに、それしか知らないみたいに。
(考えてる暇はない……っ)
秀吉は自分の着物を肩から落とし、上半身だけ脱いだ。
そして、掛布団をめくると、舞を起き上がらせ、同じ様に上半身だけ脱がす。
舞は汗をびっしょりかいていた。
秀吉は包みこむように、舞をそっと抱き締める。
「……舞」
そのまま、舞に覆いかぶさるように横になった。