第16章 ゆりかご揺れる夜には / 豊臣秀吉
「………っ、秀吉、さん……っ」
「ごめん、少しだけ」
「あ……っ」
ちゅ……っ、ちゅう……っ
口付ける音と、舞の荒い息遣いだけが、部屋に響く。
秀吉はもっと…と言う気持ちを、なんとか堪えた。
ゆっくり唇を離し、そっと肩を掴んで抱きすくめる。
「ごめん、体調悪いのに」
「大丈夫、びっくりした……」
「続きは、良くなってからな」
「もう……っ」
呆れた声を上げる舞に着物を着せ、褥に寝かしつけた。
身をかがめ、額に口付けを落としてから、優しく撫でる。
「ゆっくり寝ろ。 子守唄でも歌ってやろうか」
「秀吉さんが歌うの聞きたいな」
「本当かよ」
「うん、本当」
舞にねだられては……と思い、秀吉はいつか母から聞いた子守唄を、頭の隅から引っ張りだす。
そして舞の頭を撫でながら、口ずさんだ。
「ゆりかご揺れる夜には、金糸雀が歌うよ……」
その甘く切なく、優しく響く歌声に。
舞は幸せに思って、目を閉じた。
その晩、夜更け過ぎ……
「はぁ……っ、はぁ……っ」
舞の苦しそうな息遣いが聞こえ、秀吉は目を覚ました。
起き出して、行燈に火を灯す。
そして、舞を伺うと……
「舞……?!」
舞は、真っ赤な顔をして、うなされていた。
額に手を当てると、燃えるように熱い。
(…………っ)
「舞、おい、舞?!」
呼びかけても、堅く目を閉じたままだ。
半開きの口からは絶えず、辛そうな息がもれ……
秀吉は直感的に、ただ事じゃないと察する。
「待ってろ、今、家康を呼んでくる」
そう言い残し、その場を去ろうと立ち上がった。
すると、くん……っと着物の裾を引っ張られる感じがする。
見ると、舞が着物の裾を握っていた。
しっかりと、離すまいとしているように。