第11章 純情アンチテーゼ / 伊達政宗
「お兄ちゃん達、新婚さんか?」
と、店の主人がニコニコして話しかけてきた。
政宗と舞は顔を見合わせたが……
舞が恥ずかしそうにそっぽを向いてしまったので、政宗は苦笑しながら答える。
「いや、違う」
「よかったら、これ貰ってやって。 買ってくれたお礼」
そう差し出されたのは、対になる人形だった。
男雛と女雛のような、淡い色合いの小さな人形。
「これ、お互いに持ってると、永遠に離れないって証になるんだよ。 夫婦雛って言うんだ」
「へえ……」
政宗は受け取ると、そのまま舞の手にぽんと置いた。
「だって。 お前貰っとけ」
「政宗は?」
「俺はいい。 お前の好きな奴にでもやれよ」
そう言っておいて『じゃあ、政宗にあげる』と言われるのを、少し期待した。
舞は顔を真っ赤にしたまま『ありがとう』と、袖に閉まったので、少しがっかりしたのは内緒にしておく。
二人は、城下から少し離れた湖畔にやってきた。
少し風は強いが、逆に涼しくて気持ちいい。
「政宗、舟乗ろうよ!」
舞があまりにはしゃぐので、二人で舟に乗って湖へ出る。
櫂(かい)を漕いだ後が、綺麗な線になって、水の上を走っていく。
「わぁ……、水綺麗だね」
(すげーはしゃぎっぷり、可愛い)
舞は水面をのぞき込んで、今にも鼻が湖面に付いてしまいそうだ。
「魚、いるかな」
「いるだろ、いっぱい。 食えるのもいるし」
「食べるのはちょっとなぁ」
たわいない話をしながら、舟は湖面をすいすい進んでいく。
と、舞が水面に手を浸した。
「わ、冷たい!」
「気をつけろよ、落ちるなよ」
「大丈夫だよー」
あまりに舞がはしゃぐので、政宗はちょっとからかってやろうと低い声を出した。
「あんまり近づくと食いつかれるぞ」
「え?」
「知らないのか、ここの魚。 こう……顔を出した人間のだな」
「う、うん……」
「鼻を、飛び上がってきて」
政宗はちょっと意地悪のつもりで言ったつもりだった。
「がぶっっっ!!!と」
「きゃああっ!」
舞が立ち上がって思いっきり後ずさる。