第2章 おそ松さん《松野 一松》
「え‥‥だれ」
いつも通り猫缶をもち路地裏へ行くと
薄暗い路地裏に、白い肌が浮き出るように目立ち
その横顔から、長く伏せた睫毛とすっと通った鼻筋
僕の人生で関わることの無いであろう
絵に描いたような美人がスーツ姿でしゃがみ込み
警戒心の強い猫達を撫でている
いつもと違う路地裏の光景に、
ジャリっと後ずさりする
その小さな音に、僕の友達はいち早く気づき
にゃーと、声を上げる。
その声とともに驚いてこちらを見る彼女は
アーモンド型の大きな目に
淡く色づいた形のいい薄めの唇は
口角がきゅっと上がっている
まるで‥‥‥
「‥‥‥‥‥猫」 のようだ。
『あ!貴方の猫ちゃんだった?!
ごめんなさい!勝手に猫缶あげちゃって』
そう言いながら、ぴょんと立ち上がり
あたふたと身振り手振りで
本当はいつも仕事帰りに夜寄っていた事
今日は早めに仕事が終わってきてしまった事
を、早口でまくし立てる。
ふう、と一呼吸置き
『ごめんなさい』
と、うな垂れる彼女に笑い声が溢れる。
スーツを着た美人なんて、僕を怖がるか不審者扱いして
そそくさと立ち去ると思っていた。
なのに目の前の彼女は
さっきからずっと僕の目と視線を外さないで
話してくれる。
「‥‥‥別にいいよ」
別にずれてるわけでも無いマスクを少し
上げ直す仕草をしながら了承をだす。
『ありがとう』
そういうと、ニッコリと笑い
また、しゃがみ込み擦り寄ってくる猫の顎を撫でる
コッチコッチ!と、隣に来いと言うように
僕に手招きする。
「え、、、」
戸惑う僕に手招きの手を早める
そんな彼女に従うように
彼女の元へ行きとなりにしゃがみ込むと
ふんわりと甘い優しい香りがする
『!』
「え?」
『私の名前、貴方は?』
「い、一松」
『一枚くんね』
こちらにこてんと首を向け、
また来てもいい?そう聞く彼女に
こくこく、と馬鹿みたいに首を振った。