第2章 プロローグ
いつもそうだ。大女優である母はほとんど家にいない。帰ってきてもまたすぐに出かける。
父に至っては朝早くから自分の会社に行き、帰ってきても書斎や自室にこもっている。
私はここ数日まともに顔を合わせた記憶がないくらいだ。
きっと母は、兄が鳳学院大学に進学しても成功しているの見ているから、次男も、私も、妹もそれでいいのだと考えているのだろう。
そして父は、長男が後を継ぐことがほとんど決まったことから他のことはどうでもいいのだろうことと、私や妹のような女は勉強を一生懸命しなくても後々神崎家の傘下の名家に嫁ぐのだから問題ないと思っているのだろう。
「はあ…」
今日何度目かわからないため息がでる。
それと同時に一粒の雫が床に落ちた。
「…っ」
目からこぼれるその雫は止めどなく溢れてきて、言葉にならない声を抑えるように私は部屋に戻った。
***
「あ…」
いつの間にか寝てしまっていたのだろう。今は…
「7時…」
そろそろ夕食の時間だ。
メイドが呼びに来る前に食堂へと向かった。
「いただきます…」
今日は久々に6人の家族が食卓に揃っている。
「薫、大学はどうかしら」
「母上はいつもそれを聞きますね。充実していますよ。今年からは専門的なことも学ぶようになり、父上の後継ぎにふさわしくなるよう精進しております」
「そうか、それはうれしい限りだ。翼はどうなのだ」
「高校最後の年よね」
「はい。兄さん同様充実しています。生徒会に学習、最後まで気を抜かずに精進してまいります」
「それはいいことね」
「さすがは我が神崎家の子供だ。これからもその調子で頑張るのだよ」
「「はい」」
「咲良はどう?」
「私も小学校楽しいです!そういえばこの間のテスト満点だったんです」
「あらえらいじゃない咲良。今度ご褒美に好きなもの食べに行きましょうね」
「お母さまありがとう!」
「最近顔をあまり見れていなかったが、玲奈はどう…」
「ごちそうさまでした」
父の問いかけを遮るように食事を終わらせ自室に戻る。
「…よかった…」
ため息とともに思わずそんな言葉がこぼれる。