第8章 命懸けの復活
「しかしよく分かったな、フードの中に毒入りの氷を隠したなんて……」
目暮警部が感心したように言った。新一が答えるよりも早く、鴻上さんが観念したように笑って言った。
「雨が降ったから……。雨が降ってたのに、私がフードをかぶらなかったのを見て不審に思ったんでしょ?」
「ええ……氷が溶けて、フードの中に溜まっている青酸カリを頭からかぶるのを避けたんだろうって……」
鴻上さんは動機を話し始めた。
理由は、蒲田さんが学会に発表しようとしていた学説のことだった。
その学説に反する例外的な患者を、蒲田さんは間違った薬を与えて殺したのだ。自分の学説を守る為に。
『人間の命さえも自由に出来るこのオレが、10代の小娘1人に振り回されるとは、全く馬鹿げた世の中だ』
彩子ちゃんに婚約を解消されて、蒲田さんのヤケ酒に付き合っていた時、彼は苦々しげにこう吐き捨てたらしい。
「だから分からせてあげたのよ……病院のラボからくすねた青酸カリを彼に盛って……。あなたのような医者が人の命を扱うことの方が馬鹿げてるってことをね……」
鴻上は、蒲田さんがいつもダッシュボードに入れている免許を隠すことで、不安な行動を取らせ、自殺に見せ掛けようとしたらしい。
鴻上さんは新一を振り向いて言った。
「ラッキーだったわね探偵君?雨が降ってくれて……。あれがなければ、私が犯人だという証拠は得られなかったはず……違う?」
だが新一はさらりと言った。
「いや……ボクはフードの一件がなくてもあなたの衣服のチェックは警察にお願いするつもりでしたよ?あなたが未使用のガムシロップとミルクを所持している時点で、犯人はあなただと睨んでいましたから……」
鴻上さんは、自分がトイレから帰ってきた時、劇はもう始まっていたと言っていた。暗闇の中でカップのフタを開けても、アイスコーヒーとコーラの違いなんて見分けられない。だから鴻上さんを犯人だと確信したのだ。ガムシロップとミルクを入れなかったのは事前にどこかでフタを開けて中身を知っていたからだ、と。
「参ったわね……同じ高校のOGとしてあなたのこと、誇りにさせてもらうわよ……」
鴻上さんは哀しそうにそう笑い、警察に連行されて行った。