第8章 命懸けの復活
新一は鴻上さんを犯人と名指しした。
「飲み物を買ったあなたなら、模擬店のテーブルでミルクとガムシロップを入れるフリをして毒入りの氷を入れることが出来るというわけですよ……」
「で……でも……舞衣はガムシロップもミルクも入れてなかったわよ!?」
野田さんが焦ったように反論した。だが新一はそれもさらりと封じる。
「それは彼女が毒の氷を入れた後で中身がコーラだと気づいたからですよ……。それを入れてしまったら、蒲田さんが飲まないかもしれませんからね……」
飲み物を3人の所に持って行くのを劇が始まる直前にしたのは、返品させないため。館内が暗くなってしまえば、中身が違うことに気づいても取り替えに行くのは億劫になるからだ。
それに、毒入りの氷はビニール製のガマ口財布の中にドライアイスと共に入れておけば、長時間溶かさずに持ち運ぶことが出来る。
だが、鴻上さんは余裕しゃくしゃくで言った。
「忘れちゃったの?私も蒲田君と同じアイスコーヒーで、それをみんなの飲み物と一緒に三谷君に渡したのよ?彼がどっちのアイスコーヒーを蒲田君に渡すか分からないのに毒なんて入れられる?それとも、私が50%の確率に賭けたっていうんなら彩子ちゃんと同じで……」
「いや、100%ですよ……」
新一は自信満々に言った。
「あなたは毒入りの氷を両方のカップに入れたのだから……」
自分の飲み物を全て飲み干した点については、氷が溶ける前に急いで飲んでしまえば済む。
「そうだとしても彼女のカップから毒物反応が出るはず……。それにカップから無理に氷を出せば、周りの客に不審がられて……」
「彼女も蒲田さんのように氷を食べるフリをして、その毒入りの氷を口に含んだとしたら?」
そして新一は、平次君に借りた十円玉をピンと弾いた。
「そう……彼女はその後、氷を掌に出して……こっそりある場所に隠したんだ……。それは恐らく……彼女が羽織っているパーカーの……フードの中……」
平次君が鴻上さんのフードの口を開けた。
毒入りの氷を口に含むのは極めて危険な行為だが、毒を氷の中心に入れていたなら、やってやれないことはない。
平次が中の十円玉を取り出すと、十円玉の錆が少し取れてピカピカになっていた。銅が青酸カリに触って、酸化還元反応が起きた証拠である。