第8章 命懸けの復活
「さて……彼は分かったのかしら、この事件の真相」
私は『彼』の方をちらりと見た。彼は仮面の下からでも分かるほどニヤリ、と楽しそうに笑っていた。
その間にも、警察はこの事件を自殺と断定して捜査を切り上げようとする。だが──
「いや……これは自殺じゃない……極めて単純かつ初歩的な……殺人です……」
コナン君と私はいきなり話し始めた彼──黒衣の騎士の方を見てぎょっとした。
ダメよ……あなたはまだ、表舞台に出てはいけない人……
「そう……蒲田さんは毒殺されたんだ……。暗闇に浮かび上がった舞台の前で……常日頃から持っている、他愛もない自らの思考を利用されて……」
彼は警部たちの方へ歩いて行く。
「しかも犯人は、その証拠を今もなお所持しているはず……」
そして彼は立ち止まり、黒衣の騎士の仮面を外した。
ダメよ……やめて……
「ボクの導き出した、この白刃を踏むかのような大胆な犯行が……真実だとしたらね……」
仮面の下の素顔は──
「く……く……」
「工藤!?」
「ど、どーして!?」
──工藤新一だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
新一の登場に、帝丹高校のほとんどの人間がざわつき、興奮していた。工藤コールが体育館を埋め尽くす。
だがそれは新一の一声によって静まった。
「祭りの続きはこの血塗られた舞台に幕を下ろした後で……」
私は軽くため息をついた。こういう語りたがる所はお母さんそっくりである。
「し・ん・い・ち〜?」
「げ、瀬里奈……」
私はニーッコリと満面の笑みで新一に近寄った。そして耳元でヒソヒソと話す。
「約束が違うじゃない!何してんの!?」
「わ、悪ぃ……しゃーねーだろ、事件の真相が分かったら歯止め効かねーんだからよ!」
はぁー、と私は険のあるため息をついた。新一は適当に笑いつつ、平次君に十円玉を借りる。
そこへ目暮警部が入って来た。
毒を飲んで亡くなった蒲田さんのカップからも他の3人のカップからも毒は検出されていない上、蒲田さんは中身をほぼ飲んでしまっていることから、これはどう見ても自殺なのでは……と目暮警部は言うが、新一は「ある物を使えば殺人は可能になる」と言った。
「あ、ある物?」
「そう……トリックの初歩中の初歩……氷を利用すればね……」