第8章 命懸けの復活
「亡くなったのは蒲田耕平さん27歳……米花総合病院勤務……。劇を見ている最中に倒れられたとのことですが……」
「は、はい……なんか急に苦しみ出して……」
現場に駆けつけたのは目暮警部と高木刑事。
目暮警部は被害者の隣に座っていた野田夢美さんに話を聞いていた。
「死体のそばに落ちている、この飲み物を口にして倒れられたんじゃないですか?」
高木刑事が紙コップを持ち出して言った。だが野田さんは「劇に見入ってたから分からない」と言い、目暮警部が「その時間はいつ頃か」と訊くと──
「午後2時40分ぐらいだと思いますけど……」
と蘭ちゃんが入って来た。「ちょうど劇の中盤のシーンで悲鳴が聞こえたしね」と、私も蘭ちゃんを支持した。
目暮警部は蘭ちゃんや私がいることに驚いていたようだが、死体に誰も触らせていないことを確認し、死因を検視官に訊いた。
「青酸カリや……」
「はっ?」
私は思わず変な声が出してしまう。ふと見ると、高木刑事の後ろに変な男が立っていた。
「多分この兄ちゃん、青酸カリ飲んで死んだんやろな……」
その妙な男は関西弁で話し始めた。彼曰く、死んだ人間は血の気が引くのが普通だが、唇や爪の色がピンク色になっていることから青酸カリで死んだと確定したらしい。
「そっか。青酸カリって、飲んだら細胞中の電子伝達系がやられちゃって血液中の酸素が循環しちゃうんだもんね。だから血色が良くなるんだ」
「おー、その姉ちゃんの言う通りやで!」
私がそう言うと、彼は少し嬉しそうに言った。
「てゆーか……誰?」
「何なんだね君は?」
「なーんかどこかで会ったような会ってないような……」
私と目暮警部、小五郎が怪訝そうに問う。彼は蘭ちゃんとコナン君をちらりと見ながら言った。
「何や、もうオレのこと忘れてしもたんか?久しぶりに来たっちゅうのにつれないなー……」
「だから誰なのよ?」
私がいい加減イラついてそう言うと、彼は目深にかぶっていた帽子を外しながら言った。
「オレや!オレ……。工藤新一や!」
みんな目がまん丸くなった。新一がいるという驚きではなく──馬鹿なのかこいつは?という驚きである。
蘭ちゃんにも和葉ちゃんにも警部たちにもあっさり見破られ、自称新一は呆気なく元の姿──服部平次に戻った。
「……馬鹿なのね、要するに」