第8章 命懸けの復活
やがて劇が始まった。
蘭ちゃん演じるハート姫と、黒衣の騎士のラブストーリー(園子ちゃん曰く、『あのロミ・ジュリを凌ぐ超ラブロマンス』らしい)。
物語は、ハート姫の乗る馬車が狼藉を受けることから急転する。
ハート姫の馬車に付いていた兵士たちは帝国の兵士に次々とやられ、ハート姫も人質に取られてしまう。だがそこへ──
「ん?」
黒い何かが降って来た。
「か、カラスの羽根……」
「ま、まさか!?」
兵士の1人が驚いたような顔をする。上からひらりと華麗に降りて来たのは──
「こ、黒衣の騎士!?」
あら、意外と上手くやってるじゃない。私はくすっと笑った。
そして蘭ちゃんのセリフが続く。
「1度ならず2度までも……私をお助けになる貴方は一体誰なのです?ああ……黒衣をまとった名も無き騎士殿……わたしの願いを叶えて頂けるのなら……どうか……」
だが蘭ちゃんのセリフの途中で、黒衣の騎士は蘭を抱きしめた。
それを見た小五郎さんが怒り狂うが、和葉ちゃんが必死に止める。
そんな舞台上の2人を食い入るように見つめるコナン君と私の隣に男が座った。
「え?」
私とコナン君はその男を見て驚く。彼は──ここにいるはずないのに。
そんな観客席を物ともせず、劇は進行していく。
「あ、貴方はもしやスペイド……。昔、我が父に眉間を斬られ、庭から追い出された貴方が……トランプ王国の王子だったとは……。ああ……幼き日のあの約束をまだお忘れでなければ……どうか私の唇に……その証を……」
そこでキスシーン……となることはなかった。
観客席から悲鳴が聞こえたのだ。