第8章 命懸けの復活
「うん。メルアドを教えてくれたのよ、ベルモットのと、ボスの。携帯に登録はするなって言われてるけどね……」
そこまで話すと、誰かの足音がした。2人でハッと顔を見合わせ、哀ちゃんはパソコンに向き直った。
「こんにちはアーイ……ちゃん……」
入って来たのは蘭ちゃん。ノックぐらいしなよ、とは思うが、哀ちゃんに挨拶をしたかったのだろうと思うことにした。
やがて蘭ちゃんが部屋から出て行くと、私はたまらず言った。
「ねぇ哀ちゃん。逃げてちゃ何も変わらないわよ?」
そう言うと、哀ちゃんはパソコンに向いたまま言った。
「……何の話?」
「とぼけないの。分かってるくせに」
私は軽く苦笑いする。
「確かにサメはイルカには勝てないかもしれないけど……サメはイルカよりも強いのよ?」
「だから……っ、何が言いたいのよ!?」
カッと感情が高まったらしい哀ちゃんに、私はふっと息を漏らした。
「彼を守れるのは、イルカであるあの子じゃなく……サメのあなただってこと。彼の背中をしっかり守ってあげなさい。出来ないことはあの子や彼に任せればいいんだから、ね?」
仕上げに哀ちゃんの額に軽くデコピンをした。呆気にとられている哀ちゃんに私はウインクをした。
「まぁ見てなさい。暗殺とかの仕事は嫌だって断ったけど、他のことならやるって言ったから。組織の中枢に食い込むことができれば、APTX4869のことも分かるかもしれないし!」
私は軽くガッツポーズをした。そして未だにぽかんとしている哀ちゃんを放置し、
「じゃあ私そろそろ帰るね。おやすみ」
と手をひらひらと振って地下室を出た。
「サメは……彼を守れる……」
哀ちゃんは人のいない地下室でボソッと呟いたことは、私は知らない。