第6章 シェリー ──黒の気配
「たっだいまー」
夜。旅行から帰ってきた私はカバンをどさっと部屋に置いた。長らく家を空けていたせいで部屋は少し埃っぽい。
旅行バッグを開けて、洗濯物を洗濯機に放り込む。洗面道具を片付けたりとしている内に、夜はかなり遅くなっていた。
と、携帯がいきなり鳴り出した。このバイブレーションは着信のパターンだ。
液晶を見ると、『江戸川コナン』と表示されている。はて、コナンの方で用事なんてと思ったが、一応通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもしコナン君?どうしたの?」
『瀬里奈か?今どこにいる?』
珍しく切羽詰まったというか慌てているような声のコナン君に怪訝に思いながら私は答えた。
「もう家に帰ってるわよ!片付けしてたトコ……」
『なら丁度いい!今すぐ博士ん家来い!』
「はぁ?なんでよ」
『いいから早く!もしかしたら黒ずくめの奴らを丸裸にできるかも……』
その言葉を聞いた瞬間に私は電話を切った。
慌てて博士の家に転がり込む。
「新一!博士!」
「おお瀬里奈君か!待っておったよ」
博士が相変わらずのふくよかなお腹で出迎えてくれる。博士に案内されたパソコンの前にはすでにコナン君ともう1人──赤みがかった茶髪の少女がいた。
「えぇっと……どちら様?」
「あ、瀬里奈か。紹介するよ、こいつは灰原 哀」
「ああ、私の家に来て、新一の生死確認してた1人ね?」
「「「!!?」」」
博士も含めた3人が驚く。
「来てたでしょ?」
「……見てたの?」
「いや?見てないけど……新一のクロゼットの近くにあなたと同じ色の髪の毛が落ちていたから」
赤みがかった茶髪なんて珍しいでしょう?そう言うと少女──哀ちゃんは警戒したような顔をした。
「ああ警戒しないで。私はあなたを殺そうなんて思ってないわ。別に新一が幼児化したからって何も気にしてないし」
「……珍しいタイプね」
「そう?まぁ変わってるとか天然とか言われるけど」
しれっとそう言うとコナン君が不思議そうな顔をして訊いてきた。
「なんでオメー、灰原が幼児化に気づいてるって分かんだ?」
「ん?あ、言ってた?ごめん」
「オメー……」
コナン君が呆れたような声を上げた。
私は慌てて両手を合わせて「ごめんっ!」と謝った。