第6章 シェリー ──黒の気配
「は?旅行?」
コナン君が怪訝な声を上げた。私はこくっと頷く。
ここは阿笠博士宅。暇があったので私が博士の家に来たら、コナン君と少年探偵団のみんなが集まっていたのだ。
私は博士の出してくれたお茶を飲みながら答えた。
「そ。大学のサークル仲間とね」
「オメー組織に存在知られてんじゃねーのか?」
コナン君がものすごく怖い顔をしてこちらを睨んで来た。だがそんな視線も、ものともせずに私は言い放った。
「組織でも知ってる人は少ないらしいし、多分平気よ。あまり事件に首を突っ込んだりしなければいいと思う」
「オメーの楽観主義にはほとほと呆れるよ……」
「お褒めに預かり光栄ね」
「褒めてねーし……」
コナン君の嫌味もさらりと流す。
その後は軽く談笑して、しばらくしてから私は支度のために帰った。
「それにしてもねぇ〜……新一も心配しすぎなのよ。ったく、過保護っていうかなんていうか……」
家に戻って旅行の支度をしている時、私はひとりごちた。
ふと、家の中の違和感に気づく。物の配置が──微妙に変わっている?
何となく不安になって新一が使っていた部屋を覗いてみる。新一が小さくなってからはろくな掃除をしていなかったため、ドアを開けると埃が少し舞った。
クロゼットの近くの埃が少し綺麗になっている。誰かが開けた証拠だ。近くを見回すと、赤茶色の髪の毛が落ちていた。
……組織の人間が誰かかしら。
私は状況的に組織に直結させた。新一の死体が見つかっていないということがバレたか。そうだとすれば工藤新一が生きている可能性を確かめるべくこの工藤邸に探りを入れてくるのは当然。私が出ている間に入り込んで調査していったか。だが収穫は何もなく帰った、と──?
……いや、違う。
ここを調べた人間はクロゼットを開けていた。そうすれば分かってしまう──新一の子供の頃の服がごっそりなくなっているのを。
「まさか……」
幼児化がバレた?いや、こんな突飛な話、考えつく方がおかしい。
でもこの薬を研究した人間がここを調べていたら……?万が一の確率でも、幼児化を疑われているかもしれない。
「やばいかな……」
私は自分の旅行の支度も忘れ、うーんと頭をひねった。